「あなたも、最近はずっと緊張したままだったんでしょう? ホッとしたのかもしれないわね」

「最近、眠れないんです……。眠ろうとしたら、美乃とこのまま会えなくなるんじゃないかって考えたりして……。美乃はもっと不安だと思うけど、俺自身も不安で仕方ないんです……」

「それでも、この子を支えてあげたいと思って、傍にいるんでしょう?」

「え?」

「さっき様子を見に来た時、あなたは美乃ちゃんの手を握ったまま離さなかったの。あまりにも強い力だったから、てっきり起きてるのかと思ったくらいよ」


内田さんは、俺の背中に手を置きながら優しく諭すように続けた。


「それだけの強い想いがあるなら、今は弱音なんか吐かないで。美乃ちゃんは精一杯生きてるんだから」


それから、彼女は悪戯っぽく微笑んだ。


「それにしても、あなたが手を離してくれないせいで血圧を測るのが大変だったんだから」


内田さんの言葉で、美乃のことを好きだと気付いた時のことを思い出した。


“なにがあっても傍にいたい”
“俺が支えたい”


それは、綺麗事なんかじゃない。
あの時の俺は固く決意したはずなのに、今はその決意すら不安に押し遣られていた。


こんなんじゃ、自分勝手な愛情だよ……。


ただ好きだから、ずっと傍にいて支えたい。
たった、それだけのこと。


それなのに……心が弱い俺は、現実を受け止めることができていなかった。
そんな簡単なことを、恐怖に負けて忘れていたんだ。


こんな俺じゃ、なにも守れない……。


美乃の余命が永くないことは、きっと受け止められない。
だけど……彼女の不安は、俺にだって受け止められる。


自分の最愛の人を失うことが平気な人なんて、どこにもいるはずがないんだ。
今の俺にできるこのは、自分の弱さを受け止めて、美乃と一緒に生きることだけ――。