私はその日、色を視た。



「いらっしゃいませ」

 軽い会釈で以って出迎えた男の子。
 年の頃は私とそう変わらない、すらっと高身長の天然パーマだ。

「ブレンド一つください」

 カウンターの一番端に腰掛けながらチラリと見やったメニューの中から、それだけを選んで注文してきた。
 かしこまりました。
 そう言って作業を開始する私。

 その間、男の子は何やらスマホを弄っている様子。
 今時の子って、皆そう――だと言ってしまうのは偏見だろうか。
 私だってそう変わらない歳だろうし。

「お待たせしました。ブランドと……こちら、今冬からの新商品にと考えております、新メニューの試作でございます。よろしければ」

「新作のモニターということですか。へぇ、とっても美味しそうだ。ありがたくいただきます」

「簡単で良いので、感想なんかをいただけましたら幸いです」

 そう言ってまた軽く会釈を残して、私は片付けやらの後処理に着手した。

 しばらくして。
 作業を続ける私の背に、男の子が「あの」と声をかけた。
 振り返り、いかがしたのかと尋ねるや。

「とても美味しいです。ブレンドも、この新作予定のスイーツも。名前とかってあるんですか?」

 見た目にも特徴的なそれに、男の子は興味深そうな目で向かい合っている。

「ブッシュ・ド・ノエル。ブッシュは《丸太》、ドは英語で言うところの《of》、そしてノエルというのが《クリスマス》。フランスの有名なお菓子の一つです。これからの季節にピッタリだと思いまして。丸太のように長めのもの、切り株くらいの短くて小さなもの、その二種類を価格別に提供しようかと」

「クリスマスの丸太、ですか。お洒落ですね。それに、異なる二種類と来た。味のバリエーションは?」

「はい。一般的なチョコレート、あとはホワイトクリームの二種類ですね」

「良いですね。どちらも、クリスマスと言えばのカラーだ。絶対に売れますよ、これ。あ、ブレンドも――」

 無邪気に笑って、楽しそうに美味しそうに、食べて飲んで。
 眩しいくらいに明るいその子は、



 透明な色をしていた。