今日も、総菜屋『たつ屋』の客足は芳しくない。衛はテレビを見ながらあくびを噛み殺しながら店番をしていた。
「ヒマそうだのう」
「あ……」
「宣言どおり来てやったぞ、どれコロッケは……なんだ3つしかないのか」
そこに現れたのは葉月だった。肩には白玉が乗って辺りの匂いを嗅いでいる。
「他にメンチとかもあるけど……」
「ほう、これも美味しそうだ。なぁ、白玉」
「あ、猫にコロッケとかメンチカツあげちゃだめですよ。タマネギ入ってますから」
「そうなのか、では白玉が猫又になるまで待たなくてはならんな」
「とんかつならタマネギ入ってないですけど」
「ではそれも貰おう」
葉月は大量に揚げ物を購入してお金を支払った。このお金はどこから来たんだろう、まさか葉っぱに化けたりしないよな、などと衛は考えた。顔に出ていたのだろう、それを見た葉月は鼻を鳴らして言った。
「これは稲荷の賽銭だ。心配するな」
「あっ、すみません……それにしてもそれ全部食べるんですか」
「揚げ物は好きだな。ほれ、人間と違って太ったりなんぞしなくていいからの」
そりゃ羨ましいな、と近頃緩んできた自分のお腹の事を衛は考えた。
「おっ、ほら見ろ」
葉月が急にテレビを指さした。やっているのはお昼のワイドショーのワンコーナーである。
「カレーパンですか」
「この店、ここから近いぞ。私も以前買いに行った事がある」
「へぇぇ、うまそうだな」
「うむ、なんせカトレアのカレーパンは正真正銘の元祖だからな」
「ほう」
元祖といってもそれで美味いとは限らない、と衛が考えていると葉月はさらに続けた。
「具がたっぷり詰まっていて……うーん食べたくなってきた……」
「そのコロッケとかどうするんですか」
「そうだった。とにかく私のおすすめだ。今度行って見ると良い」
そう行って葉月は白玉を連れて去っていった。
「カレーパンかー。そういえば近頃食べてないなぁ……」
カレーパンの事を考えていたら無性にカレーパンが食べたくなってきた。確か葉月は近くだと言ってたな、と衛は携帯で検索してみた。
「森下……十分も歩けば着くか」
出てきた情報によれば、一日三回の焼き上がり時間があるようだ。今なら十五時の焼き上がりに間に合う。
「ミユキさーん」
「なんだい、うるさいね」
なにやら奥で内職めいた事をしていたミユキが、ひょこっと顔を出した。
「ちょっと出かけてこようと思うんですけど……なにしてるんですか」
「これはあやかしにあてられた人間を守る護符さ。あんたが頼りないからあたしが稼いどかないとね」
「すみません……」
「いいさ、何かしないとボケちまうし。で、どこに行くんだい」
「森下のカトレアってパン屋さんに」
ミユキの目がほう、と細くなった。
「カトレアのカレーパンだね……そういや最近食べてないね……」
「じゃあ、明日の朝ご飯用に3個買ってきます」
「いや……六個買って来な」
「多くないですか? まぁ、いいですけど」
ミユキの承諾を得て、衛は森下へと向かった。プラプラと通りを歩く。道は広くてキレイなんだけど、こんな所にパン屋なんてあるのか、と思っている所にその店はあった。
「カトレア、ここだ」
早くも行列が出来ている。衛はその列の最後尾に並んだ。
「三時の分焼き上がりましたー」
という店員の声に列に並んでいる客はそわそわしだす。香ばしいいい匂いが漂ってきた。
「これは美味しそうだ」
じっと順番を待って、ようやく自分の番がやってきた。
「何個ですかー」
「あっ、六個お願いします」
「はーい」
そう言って、詰めてくれたパンはどっしりと重たかった。それにしても衛からしたら羨ましい盛況ぶりである。
「うちも何か名物があればいいのかな」
いまだ、『たつ屋』の繁盛を諦めていない衛であった。
自宅に帰ると、瑞葉も学校から帰って来た所だった。二人を前にカレーパンを広げると、ミユキも瑞葉も顔を輝かせた。
「おお、揚げたてだね」
「ええ、まだちょっと温かいです」
「はやく食べようー」
結局そうなるのか、と衛はため息を吐いた。
「楽しそうね」
「僕ら食べられないのが残念だね」
藍と翡翠はそう言いながら、ミユキと瑞葉の喜びようを見ている。
「じゃあ、せっかくだから頂きますか」
「はーい」
「瑞葉のは甘口のやつな」
今日のおやつは揚げたてカレーパン。三人それぞれ、パンに食らいついた。ざくっとした衣を噛むと中から具が溢れてくる。惜しみ無く入れられたカレーは懐かしい味付けでとても美味しい。
「うーん、揚げ油は植物性かな」
サクサクと軽く揚がったパン生地をつまみながら、衛がつぶやく。噛むほどにしつこくない油の旨味とカレーのスパイシーさが襲ってくる。
「これこれ、他のパン屋は具が少なくてねぇ」
ミユキも満足そうに頷いた。
「もう一個いい?」
ペロリとカレーパンを平らげた瑞葉が手を伸ばすのを衛がしかる。
「それは朝ご飯の分! デブになってもしらないぞ!」
その様子を見ながら、藍と翡翠はまた残念そうに呟いた。
「ああ、せめて明日の朝乗せて貰えるといいわね」
「そうだねぇ」
そんなあやかしの呟きなどものともせず、三人は元祖カレーパンを堪能した。
「ヒマそうだのう」
「あ……」
「宣言どおり来てやったぞ、どれコロッケは……なんだ3つしかないのか」
そこに現れたのは葉月だった。肩には白玉が乗って辺りの匂いを嗅いでいる。
「他にメンチとかもあるけど……」
「ほう、これも美味しそうだ。なぁ、白玉」
「あ、猫にコロッケとかメンチカツあげちゃだめですよ。タマネギ入ってますから」
「そうなのか、では白玉が猫又になるまで待たなくてはならんな」
「とんかつならタマネギ入ってないですけど」
「ではそれも貰おう」
葉月は大量に揚げ物を購入してお金を支払った。このお金はどこから来たんだろう、まさか葉っぱに化けたりしないよな、などと衛は考えた。顔に出ていたのだろう、それを見た葉月は鼻を鳴らして言った。
「これは稲荷の賽銭だ。心配するな」
「あっ、すみません……それにしてもそれ全部食べるんですか」
「揚げ物は好きだな。ほれ、人間と違って太ったりなんぞしなくていいからの」
そりゃ羨ましいな、と近頃緩んできた自分のお腹の事を衛は考えた。
「おっ、ほら見ろ」
葉月が急にテレビを指さした。やっているのはお昼のワイドショーのワンコーナーである。
「カレーパンですか」
「この店、ここから近いぞ。私も以前買いに行った事がある」
「へぇぇ、うまそうだな」
「うむ、なんせカトレアのカレーパンは正真正銘の元祖だからな」
「ほう」
元祖といってもそれで美味いとは限らない、と衛が考えていると葉月はさらに続けた。
「具がたっぷり詰まっていて……うーん食べたくなってきた……」
「そのコロッケとかどうするんですか」
「そうだった。とにかく私のおすすめだ。今度行って見ると良い」
そう行って葉月は白玉を連れて去っていった。
「カレーパンかー。そういえば近頃食べてないなぁ……」
カレーパンの事を考えていたら無性にカレーパンが食べたくなってきた。確か葉月は近くだと言ってたな、と衛は携帯で検索してみた。
「森下……十分も歩けば着くか」
出てきた情報によれば、一日三回の焼き上がり時間があるようだ。今なら十五時の焼き上がりに間に合う。
「ミユキさーん」
「なんだい、うるさいね」
なにやら奥で内職めいた事をしていたミユキが、ひょこっと顔を出した。
「ちょっと出かけてこようと思うんですけど……なにしてるんですか」
「これはあやかしにあてられた人間を守る護符さ。あんたが頼りないからあたしが稼いどかないとね」
「すみません……」
「いいさ、何かしないとボケちまうし。で、どこに行くんだい」
「森下のカトレアってパン屋さんに」
ミユキの目がほう、と細くなった。
「カトレアのカレーパンだね……そういや最近食べてないね……」
「じゃあ、明日の朝ご飯用に3個買ってきます」
「いや……六個買って来な」
「多くないですか? まぁ、いいですけど」
ミユキの承諾を得て、衛は森下へと向かった。プラプラと通りを歩く。道は広くてキレイなんだけど、こんな所にパン屋なんてあるのか、と思っている所にその店はあった。
「カトレア、ここだ」
早くも行列が出来ている。衛はその列の最後尾に並んだ。
「三時の分焼き上がりましたー」
という店員の声に列に並んでいる客はそわそわしだす。香ばしいいい匂いが漂ってきた。
「これは美味しそうだ」
じっと順番を待って、ようやく自分の番がやってきた。
「何個ですかー」
「あっ、六個お願いします」
「はーい」
そう言って、詰めてくれたパンはどっしりと重たかった。それにしても衛からしたら羨ましい盛況ぶりである。
「うちも何か名物があればいいのかな」
いまだ、『たつ屋』の繁盛を諦めていない衛であった。
自宅に帰ると、瑞葉も学校から帰って来た所だった。二人を前にカレーパンを広げると、ミユキも瑞葉も顔を輝かせた。
「おお、揚げたてだね」
「ええ、まだちょっと温かいです」
「はやく食べようー」
結局そうなるのか、と衛はため息を吐いた。
「楽しそうね」
「僕ら食べられないのが残念だね」
藍と翡翠はそう言いながら、ミユキと瑞葉の喜びようを見ている。
「じゃあ、せっかくだから頂きますか」
「はーい」
「瑞葉のは甘口のやつな」
今日のおやつは揚げたてカレーパン。三人それぞれ、パンに食らいついた。ざくっとした衣を噛むと中から具が溢れてくる。惜しみ無く入れられたカレーは懐かしい味付けでとても美味しい。
「うーん、揚げ油は植物性かな」
サクサクと軽く揚がったパン生地をつまみながら、衛がつぶやく。噛むほどにしつこくない油の旨味とカレーのスパイシーさが襲ってくる。
「これこれ、他のパン屋は具が少なくてねぇ」
ミユキも満足そうに頷いた。
「もう一個いい?」
ペロリとカレーパンを平らげた瑞葉が手を伸ばすのを衛がしかる。
「それは朝ご飯の分! デブになってもしらないぞ!」
その様子を見ながら、藍と翡翠はまた残念そうに呟いた。
「ああ、せめて明日の朝乗せて貰えるといいわね」
「そうだねぇ」
そんなあやかしの呟きなどものともせず、三人は元祖カレーパンを堪能した。