「かっこ悪いですかね?」薫子は苦笑した。「わたし、かっこいいと思っちゃったんですけど……」

「薫はかわいいなあ、おやっさんきゅんきゅんしちゃうよ」

義雄、と僕が言うと、雅美が「犯罪にだけは発展しないでよ」と僕の言葉を遮った。言いたいことを言ってくれた雅美に同意を示す。

「義雄のやりたい薫ちゃんを愛でくりまわすのはわたしがやるから」と言う雅美へは「よくわかんないけどだめだよ」と返す。

薫子は小さく苦笑した。

「ところで、義雄さんはどうしてそんなに洋菓子に詳しいんですか? 経営してるのは和食屋さんなのに」薫子が純粋な声を並べた。

「おれ、高校生の頃に洋菓子店でアルバイトしてたんだ」

「へえ、パティシエにでもなりたかったんですか?」

いいや、と義雄はかぶりを振る。「そんな純粋な動機じゃないよ。ただ、家から近いっていうだけの理由。アルバイトをしたかったのは、面接っていうものを経験してみたかったから」

ひどい、と僕は小さく本音をこぼした。いやいやと義雄は否定する。

「確かにね、ちょっと不純すぎる気もするよ? だけどね、当時のおれのおかげで今、親愛なる薫にかっこいいって言われたから」

「満足そうでなによりだ」

僕はババロアとやらを口に入れた。

「どうだ」と言う義雄へ、「ちょっとおいしい」と返す。「それはかなりの美味だな」と義雄は満足げに言う。

「じゃあわたしもいただきます」と薫子もババロアを口に入れた。「幸せすぎて泣けてきますね」と笑う。

続いて雅美がババロアに手を付けた。「おじいちゃん達気をつけてね」と茂さん達を覗き込む。