「はい、一回振り向く感じで、そう」
かのん君は代官山の街角で、トレンチコートと鞄を持ちながらポーズをとっていた。カメラのシャッター音が鳴る度に少しずつ首の角度を変えたりしている。こうしてると、モデルだなぁ……って思う。
「最近はよく頑張ってくれてるの。本腰入れてくれたっていうか。真希さんのおかげかしら」
「私ですか?」
「ええ、男性モデルって寿命が短いのよ。だからやる気を出して助かってるの。かのんが勝手に彼女を公開した時は本当に困ったって思ったけど……」
そう言って山口さんは私をチラリと見た。あ、この人が色々動いてくれたから炎上騒ぎの時も犯人が分かったんだ。
「あの、以前の騒ぎの時はお世話になりました」
「タレントを守るのが事務所の仕事だから」
真っ直ぐにかのん君を見つめる山口さんの目は誇りに満ちていて、私はちょっと主任の事を思い出した。
「あ、終わったみたい」
「真希ちゃんだー!」
私をみつけたかのん君が子犬のように駆け寄ってくる。さっきの真面目な表情からうって変わって緩んでいるのが分かる。私も朝会社でこんな顔してるのかな。
「疲れたー、そこでお茶しようー。山口さんも」
「はいはい」
山口さんはまるでかのん君のおかあさんみたいだ。安心して我が儘が言える相手って事なのかな。私達は近くのカフェに入ってちょっと話をする事になった。
「俺、フルーツティー。真希ちゃんは? コーヒー?」
「ううん、わたしもそれにする」
「そう、珍しいねいっつもブラックコーヒーなのに」
そう、私は代官山のカフェの空気に完全に飲まれていた。関東北部の田舎育ちの自分からしたら、こう存在してはいけないような……。なのにテラスのこんな目立つ席に座っていて居心地が悪い。
「山口さんは?」
「オレンジジュース」
「いいな、甘いの」
「フルーツティーも変わらないわよ?」
各自注文をすると、話は本題だと言わんばかりに山口さんが口を開いた。
「かのんが迷惑かけると思いますけど、よろしくお願いします」
「え、え……迷惑かけてるのはどっちかっていうと私の方で……」
「いや、かのんはタレントですから。大きな迷惑をこうむるのは真希さん、あなたの方です」
山口さんの口から直接出なかったが、以前の事件を考えて見ろという口調だった。
「覚悟はおありですか」
「……もちろんです」
例え誰かに罵られても、最悪仕事を変えることになっても。かのん君と離れたくない。
「……そう」
「だってさ。山口さん。真希ちゃんは絶対こう言うって言ったでしょ」
「かのんの口から聞いても意味ないの」
山口さんは私の言葉を聞いてちょっとほっとしたのか、オレンジジュースにやっと口を付けた。
「かのんはモデルにしては背が低いし、キャラにアクが強いからもっとタレントっぽい仕事もして欲しいんですけどね」
「んもー、そういう話は真希ちゃんのいないところでやってよ」
「真希さんはどう思います……?」
「山口さん!!」
山口さんはさりげなく私に話を振ってきている。けど、それぞれの仕事は基本ノータッチが私達のルールだ。
「かのん君がやりたければやればいいと思います」
その手には乗らないよ、とにこりと微笑んで山口さんに答える。
「しっかりしてるわね。かのんをお願いします」
「こちらこそ」
「でも、困ったら相談して。かのんに言いにくいことでも」
「……はい」
そうして山口さんとのお茶会は終わった。そのままプラプラと街を散策しながらかのん君と家路を目指す。
「このカップ買っていかない?」
「いいよ、何個買う?」
途中雑貨を見たりしながらの町歩きも楽しい。
「山口さん、いい人だね」
「うん、俺恵まれてるよ」
そう言ったかのん君の顔には少し影があった。その時は気づかなかったけれど。
かのん君は代官山の街角で、トレンチコートと鞄を持ちながらポーズをとっていた。カメラのシャッター音が鳴る度に少しずつ首の角度を変えたりしている。こうしてると、モデルだなぁ……って思う。
「最近はよく頑張ってくれてるの。本腰入れてくれたっていうか。真希さんのおかげかしら」
「私ですか?」
「ええ、男性モデルって寿命が短いのよ。だからやる気を出して助かってるの。かのんが勝手に彼女を公開した時は本当に困ったって思ったけど……」
そう言って山口さんは私をチラリと見た。あ、この人が色々動いてくれたから炎上騒ぎの時も犯人が分かったんだ。
「あの、以前の騒ぎの時はお世話になりました」
「タレントを守るのが事務所の仕事だから」
真っ直ぐにかのん君を見つめる山口さんの目は誇りに満ちていて、私はちょっと主任の事を思い出した。
「あ、終わったみたい」
「真希ちゃんだー!」
私をみつけたかのん君が子犬のように駆け寄ってくる。さっきの真面目な表情からうって変わって緩んでいるのが分かる。私も朝会社でこんな顔してるのかな。
「疲れたー、そこでお茶しようー。山口さんも」
「はいはい」
山口さんはまるでかのん君のおかあさんみたいだ。安心して我が儘が言える相手って事なのかな。私達は近くのカフェに入ってちょっと話をする事になった。
「俺、フルーツティー。真希ちゃんは? コーヒー?」
「ううん、わたしもそれにする」
「そう、珍しいねいっつもブラックコーヒーなのに」
そう、私は代官山のカフェの空気に完全に飲まれていた。関東北部の田舎育ちの自分からしたら、こう存在してはいけないような……。なのにテラスのこんな目立つ席に座っていて居心地が悪い。
「山口さんは?」
「オレンジジュース」
「いいな、甘いの」
「フルーツティーも変わらないわよ?」
各自注文をすると、話は本題だと言わんばかりに山口さんが口を開いた。
「かのんが迷惑かけると思いますけど、よろしくお願いします」
「え、え……迷惑かけてるのはどっちかっていうと私の方で……」
「いや、かのんはタレントですから。大きな迷惑をこうむるのは真希さん、あなたの方です」
山口さんの口から直接出なかったが、以前の事件を考えて見ろという口調だった。
「覚悟はおありですか」
「……もちろんです」
例え誰かに罵られても、最悪仕事を変えることになっても。かのん君と離れたくない。
「……そう」
「だってさ。山口さん。真希ちゃんは絶対こう言うって言ったでしょ」
「かのんの口から聞いても意味ないの」
山口さんは私の言葉を聞いてちょっとほっとしたのか、オレンジジュースにやっと口を付けた。
「かのんはモデルにしては背が低いし、キャラにアクが強いからもっとタレントっぽい仕事もして欲しいんですけどね」
「んもー、そういう話は真希ちゃんのいないところでやってよ」
「真希さんはどう思います……?」
「山口さん!!」
山口さんはさりげなく私に話を振ってきている。けど、それぞれの仕事は基本ノータッチが私達のルールだ。
「かのん君がやりたければやればいいと思います」
その手には乗らないよ、とにこりと微笑んで山口さんに答える。
「しっかりしてるわね。かのんをお願いします」
「こちらこそ」
「でも、困ったら相談して。かのんに言いにくいことでも」
「……はい」
そうして山口さんとのお茶会は終わった。そのままプラプラと街を散策しながらかのん君と家路を目指す。
「このカップ買っていかない?」
「いいよ、何個買う?」
途中雑貨を見たりしながらの町歩きも楽しい。
「山口さん、いい人だね」
「うん、俺恵まれてるよ」
そう言ったかのん君の顔には少し影があった。その時は気づかなかったけれど。