「……おはよ」
「おはよ」

 くすぐったい朝だ。少しけだるげなかのん君の顔を見るのが恥ずかしくて、私は枕に顔を埋めた。

「シャワー浴びてくる」

 かのん君はバスローブを着て、シャワーを浴びている間に私は服を着替えた。愛された喜びが身体の芯に残っている。とうとうこれで身も心も全部かのん君に捧げたってことなのかな。

「あれっ、もう起きるの」
「あ、うん……ちょっと海岸を散歩しようかなって」

 事後の姿でいるのが気恥ずかしかったのだと、そこまで素直にはなれなくてどうでもいい理由で誤魔化す。

「……コーヒー飲む?」
「うん」

 二人の間に漂う空気が濃い。今までもバカみたいにラブラブしてたと思うんだけど、それがおままごとに思えるほど。裸眼でスッピンのかのん君はいつもみたいにかわいいだけじゃなくて。そして私はなんだかよそよそしくしてしまって。

「ブラックだよね、はい」
「ありがとう」

 かのん君は紅茶を淹れたみたいだ。それぞれ違う人間。だけど今は一つ。

「今日で旅行もお仕舞いかぁ」
「あ、お土産買わなきゃ。桜井さんには特に。業務代わってもらってるし」
「ハブ酒でも買おう」
「あれ以上元気になられてもこまるよ」

 この旅行が終わったら、また慌ただしい日常が戻って来る。それでも、今日の日は忘れないだろう。どんな事があっても。

「それじゃあ朝食に行こう」

 そういって自然に私達はキスをした。今度はこれが二人の日常になるのだ。幸せを噛みしめて私達の旅は終わった。



「……で、ハブ酒を買った。と」
「ちゃんと普通の泡盛も買ったじゃない」

 会社に出社して、桜井さんにお土産を配ると彼女は私のお土産のハブ酒の箱を振りながら呆れたように言った。

「ハブの精力が必要なのはそっちでしょー? で、買い物は役にたった?」
「……もう」

 立ちましたよ。とっておきの下着をとても綺麗だと褒められて買って良かったって心から思った。そして身体を繋げて気持ちに変化が起きたのは私だけではなかったらしい。

「……一緒に住む?」
「うん、こうやって行ったりきたりもいいいけどさ。もうほとんど一緒に住んでるのと変わらなくない?」
「うーん……」

 以前の自分なら、なにか言い訳を考えて断っていたようにも思う。一緒に住むって事はふいに取り繕えないカッコ悪い部分も見せるって事だ。でも、今ならいいかもしれないと思ってしまった。

「個室があるなら……いいかな」
「ほんと! じゃあ不動産屋さんあたってみるね」

 自分でも驚くほどあっさり返事してしまった。今は自分の時間より、かのん君と時間の許す限り一緒にいる方を選びたい。そんな風に自然に考えられたのだ。

「かのん君」
「はい?」
「ふつつかものですが、よろしくお願いします」

 おどけてそう言うと、かのん君も頭を下げた。

「こちらこそ」
「どっちかっていうと迷惑かけそうなのは私だし」

 いつ行ってもかのん君の部屋には生活感が無い。あんな風にはとてもできないと思う。そう伝えると、かのん君は笑って答えた。

「そんなの、収納BOXになんでもほうりこんでるからだよ」
「そうなの」
「家具も買わなきゃなぁ……あ、家電も?」
「無駄遣いはダメだよ」

 そうしてウキウキと、二人の同棲計画は進んでいった。かのん君が選んできた物件から何軒か内見をして、2LDKの部屋は前よりも駅近で日当たりもいい部屋が決まった。家賃は折半。前よりちょっと出費が増えたけれど、これ以上の物件はないだろうという事で即決した。

「稼がなきゃなぁ~。早く表紙飾れるモデルにならないと」
「私は節約する!」
「でも家具は買うよ」

 ああ、何しても楽しい。私とかのん君は引っ越し作業の後に大型ショッピングモールに行って細々したものを買い足したり、奮発してソファを新調したりした。

「茶色のソファーで良かったの?」
「うん?」
「なんかかのん君はグリーンのイメージがあって」
「だからだよ。二人で住むんだから。ほらクッションはグリーンとブルー」
「ブルー?」
「俺の真希ちゃんのイメージ」

 そう言いながら、額にキスされるのを心地よく受け止めながら私達の同棲生活ははじまった。