――終業のベルがなり、主任が終礼の合図をする。私と桜井さんは終礼が終わるのを今か今かと待ち構えていた。

「決戦日は!」
「六月二十三日から二十五の2泊3日」
「有給申請は!」
「出しました!」
「よし!」

 私達は早足で社屋を出ると、そのまま新宿のデパートへと向かった。夏を迎えた特設水着売り場。今日の我々の戦場はここだ。

「多すぎて逆に分かんなくなりそう……」

 色とりどりの水着の海で早くも溺れそうになっていた。

「これは?」
「子供っぽい、却下」
「じゃあ……これは?」
「うーん、ちょっと着てみて」

 バンドルタイプと言われるねじったような形のビキニを試着してみる。あ、これはだいぶお肉がはみ出る。

「うらやま……却下! 次はこれ!」

 鬼軍曹と化した桜井さんのすすめるものを次々と着る羽目になった。

「あ……」

 その中の一着、ブルーの花柄のワンピースタイプの水着で胸元からお腹に書けて丸く開いていてちょっとセクシーでもある。

「桜井軍曹……」
「だれが軍曹だ……あ、いいじゃない」

 桜井さんからのGOがでたのでそちらを購入。さて……問題は……。

「下着売り場は三階よ」
「桜井さん、そこは私一人で……」

 そういうと、桜井さんは大きく首を振った。

「私はね、行きもしない沖縄であんたとかのん君がキャッキャウフフするための水着を選んだのよ?」
「は、はい……?」
「だから、その後のキャッキャウフフの戦闘服も選ぶ権利があると思わない……?」
「いやー、それはどうでしょう……」
「まぁまぁ、いいじゃない。減るもんでもないし」

 桜井さんを振り切るのはこれはあきらめた方がいいかもしれない。とっとと買い物をすませよう。私と桜井さんは三階の下着売り場へと移動した。

「すみません、サイズ測ってください」

 着くなり桜井さんは店員さんを捕まえてそう言った。

「ちょっと、桜井さんサイズなら私分かってるよ」
「最後に測ったのは?」
「うーん……2年前くらい?」
「ダメダメ、そんなんじゃ。ここはプロに任せましょ」

 白手袋のお姉さんにあちらこちらを測られ、少々お待ちくださいと言われる。

「こちらは三分の二カップですがホールド力が高くてですね、こちらはこのようにサイドの伸縮が特徴で着心地が楽です」
「はぁ……」
「とにかく試着ね」
「桜井さんも見るの!?」
「……そこは我慢します」

 その言葉に安心して、試着をはじめる。そしてようやく下着売り場のお姉さんの勧めに従って、三つほどに絞り込んだ。

「これにするわ……」

 今日だけで何回脱いだり着たりしただろう。もういい加減疲れた。

「……地味じゃない?」

 しかし、桜井軍曹のOKはここでは出なかった。

「このブラ、黒とか赤とか派手な色ないんですか?」

 ああ! 勝手に桜井さんが店員さんと交渉をはじめた。そんな派手なの私付けたことないのに……。しかし、店員さんはキラリと目を光らせてこう言った。

「ございます。すぐにご用意いたします」

 店員さんのプロ根性の成果で、黒や赤のブラジャーが目の前に並んだ。あれ……でも想像していたのよりもどぎつくない。レースの模様も綺麗だな。

「ご試着、してみます?」
「はい」

 そして、身につけてみると……あれ何だか色が白くてキレイに見える、かも。

「濃い色ですと肌が映えますからね」

 まるで私の考えを読んだかのように店員さんはそう言って微笑んだ。プロ、恐るべし。

「さて、セットのショーツもお求めになりますか?」
「あ、はい」
「このシリーズですと。フルバックのショーツに、ボーイレッグ、それからこのようなタンガタイプもございます」

 ぴらん、と目の前に出されたタンガというやつは極端に布面積の少ないものだった。

「じゃあ、全部タンガで……」
「ちょっと! 桜井さん! 全部普通のショーツにして下さい!」
「かしこまりました」

 どたばたしたけれど、これでかのん君との沖縄旅行に必要なものは揃った! うん、楽しみだな。