ザーザーとお湯の音がお風呂場から聞こえて来るのを私はぼんやりと耳にしていた。くつろいでいい、か……くつろげないよねこの状況。どう考えても。
その時、ピロンと音を立ててメッセージの通知が来た。桜井さんだ。
『大丈夫? ちゃんと家に帰れた?』
なんだかんだ優しいな、桜井さんは。
『大丈夫。今、かのん君の家に居る』
『ほー』
桜井さんはあっさりした返信と一緒にジト目の猫のスタンプを寄越した。
『お父さんはお泊まりなんて許しませんよ!』
『誰がお父さんやねん! ちゃんと帰るよ、明日も仕事だし』
『急に具合が悪くなったら察するわ』
『察しなくていいから。ちゃんと帰ります』
そんなメッセージの応酬をしているとガラガラとお風呂場の扉が開く音がした。そしてドライヤーで髪を乾かす音が。ああ、風呂上がりのかのん君がすぐそこに。
「真希ちゃん、なにしてんの?」
「え? あ、桜井さんとメッセしてる。安否確認されちゃった」
「そっか」
かのん君が、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出して私に渡してくれる。
「飲む?」
「あ、うん」
「よいしょっと」
ソファーの私の横に腰掛けるかのん君からはボディソープの匂いがする。なんだろう、いつもと雰囲気が違う。
「じゃーん、すっぴん公開!」
じっと見つめている私の視線を受けて、かのん君はそうおどけてみせた。そうか、お風呂上がりだからメイクしてないんだ。
「どーう? がっかりー?」
「ううん! ううん!」
メイクをしていないかのん君はいつもより男っぽい。メイクしなくても十分イケメンなんだよな……。
「ちょっと雰囲気違うから……ドキドキしただけ」
「そーお? じゃあいつもこの顔でいようかなー……なんてね、しないけど」
「うん、メイクしているかのん君がかのん君って感じだからそれでいいと思うよ」
本当に普通に、そう思ったから言っただけなんだけど。かのん君はにまーっと笑うと私に抱きついた。
「ちょっと! かのん君!」
「真希ちゃんのそういう所ほんと好き」
「もう……」
私も同じボディソープで身体洗ったから同じ匂いがするね。お互いの体温だけ感じながら子犬のようにしがみついているかのん君の頭をなでた。
「聞いてもいい? どうしてメイクするようになったのか」
「うん、いいよ」
そこからかのん君の昔の話がはじまった。
「あれは中学の頃だったかなぁ……クラスの目立つタイプの女子が化粧するようになって」
うーん、とこめかみを押さえながら記憶を辿るかのん君。
「冗談で俺もメイクされたんだよね。そしたらこう……似合ってるって思って。そしたらクラスの女子のメイク見てたら下手くそだなって。それで動画とか雑誌みてあれこれ研究
するようになって今に至る……って感じ」
「まさに好きでやってるって感じだね」
「うん、洋服みたいに気分で顔を変えられるのってすごいんだよ。女の人は意識しないかもだけど」
「そうだなー。周りがしているし、気になるところ隠したいからしてる感じだね、私は」
わたしがうんうん、と頷いているとかのん君は盛大にため息をついた。
「それなんだよぉー……いや、化粧したくない人はしなくていいと俺は思うんだよね。でもするんなら楽しんでして欲しいわけ」
「ま、したくないって程ではないかな?」
「真希ちゃん! 真希ちゃんはもっとキレイになれるよ! 朝は俺がしっかりメイクしてあげるから」
「へ? え?」
朝? って事は何気なくお泊まり決定って事?
「さぁ、そろそろ10時! お肌のゴールデンタイムだから寝るよ!」
かのん君は私をベッドに強引に連れて行くと私をどうやったのかポンと軽く転がして寝かせた。そして隣に入ってくる。
「まずはその目の下のクマを退治しないとね」
そういいながら赤ちゃんをあやすように背中をポンポンと叩いてくる。密着してくる身体にドキドキしていたものの、昨晩一睡もしていなかった私は規則正しいそのリズムにいつしか眠りの海に落ちていったのだった。
その時、ピロンと音を立ててメッセージの通知が来た。桜井さんだ。
『大丈夫? ちゃんと家に帰れた?』
なんだかんだ優しいな、桜井さんは。
『大丈夫。今、かのん君の家に居る』
『ほー』
桜井さんはあっさりした返信と一緒にジト目の猫のスタンプを寄越した。
『お父さんはお泊まりなんて許しませんよ!』
『誰がお父さんやねん! ちゃんと帰るよ、明日も仕事だし』
『急に具合が悪くなったら察するわ』
『察しなくていいから。ちゃんと帰ります』
そんなメッセージの応酬をしているとガラガラとお風呂場の扉が開く音がした。そしてドライヤーで髪を乾かす音が。ああ、風呂上がりのかのん君がすぐそこに。
「真希ちゃん、なにしてんの?」
「え? あ、桜井さんとメッセしてる。安否確認されちゃった」
「そっか」
かのん君が、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出して私に渡してくれる。
「飲む?」
「あ、うん」
「よいしょっと」
ソファーの私の横に腰掛けるかのん君からはボディソープの匂いがする。なんだろう、いつもと雰囲気が違う。
「じゃーん、すっぴん公開!」
じっと見つめている私の視線を受けて、かのん君はそうおどけてみせた。そうか、お風呂上がりだからメイクしてないんだ。
「どーう? がっかりー?」
「ううん! ううん!」
メイクをしていないかのん君はいつもより男っぽい。メイクしなくても十分イケメンなんだよな……。
「ちょっと雰囲気違うから……ドキドキしただけ」
「そーお? じゃあいつもこの顔でいようかなー……なんてね、しないけど」
「うん、メイクしているかのん君がかのん君って感じだからそれでいいと思うよ」
本当に普通に、そう思ったから言っただけなんだけど。かのん君はにまーっと笑うと私に抱きついた。
「ちょっと! かのん君!」
「真希ちゃんのそういう所ほんと好き」
「もう……」
私も同じボディソープで身体洗ったから同じ匂いがするね。お互いの体温だけ感じながら子犬のようにしがみついているかのん君の頭をなでた。
「聞いてもいい? どうしてメイクするようになったのか」
「うん、いいよ」
そこからかのん君の昔の話がはじまった。
「あれは中学の頃だったかなぁ……クラスの目立つタイプの女子が化粧するようになって」
うーん、とこめかみを押さえながら記憶を辿るかのん君。
「冗談で俺もメイクされたんだよね。そしたらこう……似合ってるって思って。そしたらクラスの女子のメイク見てたら下手くそだなって。それで動画とか雑誌みてあれこれ研究
するようになって今に至る……って感じ」
「まさに好きでやってるって感じだね」
「うん、洋服みたいに気分で顔を変えられるのってすごいんだよ。女の人は意識しないかもだけど」
「そうだなー。周りがしているし、気になるところ隠したいからしてる感じだね、私は」
わたしがうんうん、と頷いているとかのん君は盛大にため息をついた。
「それなんだよぉー……いや、化粧したくない人はしなくていいと俺は思うんだよね。でもするんなら楽しんでして欲しいわけ」
「ま、したくないって程ではないかな?」
「真希ちゃん! 真希ちゃんはもっとキレイになれるよ! 朝は俺がしっかりメイクしてあげるから」
「へ? え?」
朝? って事は何気なくお泊まり決定って事?
「さぁ、そろそろ10時! お肌のゴールデンタイムだから寝るよ!」
かのん君は私をベッドに強引に連れて行くと私をどうやったのかポンと軽く転がして寝かせた。そして隣に入ってくる。
「まずはその目の下のクマを退治しないとね」
そういいながら赤ちゃんをあやすように背中をポンポンと叩いてくる。密着してくる身体にドキドキしていたものの、昨晩一睡もしていなかった私は規則正しいそのリズムにいつしか眠りの海に落ちていったのだった。