高円寺の駅から徒歩十五分。そこに自宅がある。ちょっと離れると閑静な住宅街になる。駅まで少し遠いのが難点だけど、どうしても都会に住みたかった私は家賃との兼ね合いで決めたマンションだ。静かだし、日当たりもよくてそこそこ気に入っている。
「よく考えたら、真希ちゃんの家に行くの初めてだ」
「あー、そうか……」
家が近い所為で逆にお互いの家に行く事がなかったのよね。かのん君の家に行ったのも最初のあれが最後だ。あれ? ちゃんと掃除したっけ……。
「どうしたの? やっぱ怖い?」
「えっ? ああううん大丈夫」
多分パンツが落ちてる様なことは無いはず。うん、きっと大丈夫。私は違う心配をしながらマンションへと向かった。マンション入り口近くの角からそっとのぞき見る。うん、誰も居ない。ドギマギしながらエレベーターに乗る。なんで自分の家に帰るのにこんなにビクビクしなきゃならないんだか。もう。
「真希ちゃんは奥に」
そう言って、かのん君が私をかばうようにエレベーターにのせてくれた。
「……どう」
「誰も居ない」
「そっかー」
ようやく安心だ。私は鍵を出すとドアに差し込んだ。
「ふうーっ、帰宅ー」
靴を脱ぎ、玄関の明かりをつける。ほっ、パンツは落ちてない。
「かのん君、上がって。とりあえずお茶でも淹れるから」
「じゃあお言葉に甘えて」
鞄を置いて、ジャケットを脱ぐと電気ケトルに水を入れて湧かす。何が良いかな? この時間だし……ああん、ハーブティーとか買っておけば良かった。
「かのん君、ほうじ茶でいい?」
「うん、好きだよ。ほうじ茶」
「良かった」
淹れ立ての熱いほうじ茶をかのん君に渡す。もらい物の適当なマグカップに入ったほうじ茶をふうふう啜っているかのん君の姿。すっごい違和感。でもカワイイ。
「夕飯、あり物になるけど何か作るから食べる?」
「ええっ、真希ちゃんの手料理!? 食べる食べる!」
かのん君は子犬の様にはしゃいでいる。その姿を目を細めて見ていると、インターフォンが鳴った。
「あれ、配達かな」
「なんか頼んだの?」
「うん。ネットで服をちょっと」
かのん君とのデート用に先日、ファッションサイトで服を何着か頼んだのだ。夜配達指定にしたからそれかもしれない。
「はーい」
私は、判子を持ってドアを開けて、そして固まった。
「よお」
「……ハルオ? なんで……」
そこに居たのは配達のお兄さんではなく、元彼のハルオだった。
「とりあえず入れろ」
「だ、ダメ!!」
中に入ろうとするハルオを渾身の力で押し返す。
「どうしてここに居るの!?」
「そこの公園でお前が帰ってくるの見張ってたんだよ」
なにそれ怖い。ハルオの行動に心底ぞっとして私はドアをすぐ閉めようとした。しかし、ハルオは靴の先をドアにねじ込んだ。そして力任せにドアを開けて入ってくる。
「なんだよ、男でもいるのか? んなわけないか」
男なら居るけど。玄関には私のパンプスとかのん君のハイヒール。そう見えなくても仕方ないか。
「お前、なにブロックしてんだよ。連絡も寄越さないで。それでも彼女か?」
「……彼女じゃない!」
「はぁ?」
「ハルオ、あんた好きな人が出来たっていったじゃない」
「……まぁ言ったけど」
一方的に説教モードに入ったハルオはその一言で少し口を濁らせた。
「なによ? その子にフラれでもしたの? 私はとっくに別れてるつもりですからね!」
本当はメッセージが来た時にハルオにぶつけたかった言葉が口をついて出る。それを聞いたハルオの顔がみるみる怒りで赤く染まっていった。
「真希! お前生意気だぞ」
ハルオの腕が伸びて、私の腕を強く掴んだ。痛い。
「離してよっ!」
その手を振り払おうとしたが、悲しい事に男の力の前にびくともしなかった。私とハルオはお互い鋭い目をしながら睨み合った。
「はーい、そこまでー」
そんな空気を壊したのはかのん君の涼やかな声。
「ダメだよー、女の子にはやさしくしないと」
腕を組んだかのん君が玄関の私達に向かって近づいてくる。表情こそ笑顔だが、その目は笑っていなかった。
【ライト文芸大賞エントリー中 応援よろしくお願いします。】
「よく考えたら、真希ちゃんの家に行くの初めてだ」
「あー、そうか……」
家が近い所為で逆にお互いの家に行く事がなかったのよね。かのん君の家に行ったのも最初のあれが最後だ。あれ? ちゃんと掃除したっけ……。
「どうしたの? やっぱ怖い?」
「えっ? ああううん大丈夫」
多分パンツが落ちてる様なことは無いはず。うん、きっと大丈夫。私は違う心配をしながらマンションへと向かった。マンション入り口近くの角からそっとのぞき見る。うん、誰も居ない。ドギマギしながらエレベーターに乗る。なんで自分の家に帰るのにこんなにビクビクしなきゃならないんだか。もう。
「真希ちゃんは奥に」
そう言って、かのん君が私をかばうようにエレベーターにのせてくれた。
「……どう」
「誰も居ない」
「そっかー」
ようやく安心だ。私は鍵を出すとドアに差し込んだ。
「ふうーっ、帰宅ー」
靴を脱ぎ、玄関の明かりをつける。ほっ、パンツは落ちてない。
「かのん君、上がって。とりあえずお茶でも淹れるから」
「じゃあお言葉に甘えて」
鞄を置いて、ジャケットを脱ぐと電気ケトルに水を入れて湧かす。何が良いかな? この時間だし……ああん、ハーブティーとか買っておけば良かった。
「かのん君、ほうじ茶でいい?」
「うん、好きだよ。ほうじ茶」
「良かった」
淹れ立ての熱いほうじ茶をかのん君に渡す。もらい物の適当なマグカップに入ったほうじ茶をふうふう啜っているかのん君の姿。すっごい違和感。でもカワイイ。
「夕飯、あり物になるけど何か作るから食べる?」
「ええっ、真希ちゃんの手料理!? 食べる食べる!」
かのん君は子犬の様にはしゃいでいる。その姿を目を細めて見ていると、インターフォンが鳴った。
「あれ、配達かな」
「なんか頼んだの?」
「うん。ネットで服をちょっと」
かのん君とのデート用に先日、ファッションサイトで服を何着か頼んだのだ。夜配達指定にしたからそれかもしれない。
「はーい」
私は、判子を持ってドアを開けて、そして固まった。
「よお」
「……ハルオ? なんで……」
そこに居たのは配達のお兄さんではなく、元彼のハルオだった。
「とりあえず入れろ」
「だ、ダメ!!」
中に入ろうとするハルオを渾身の力で押し返す。
「どうしてここに居るの!?」
「そこの公園でお前が帰ってくるの見張ってたんだよ」
なにそれ怖い。ハルオの行動に心底ぞっとして私はドアをすぐ閉めようとした。しかし、ハルオは靴の先をドアにねじ込んだ。そして力任せにドアを開けて入ってくる。
「なんだよ、男でもいるのか? んなわけないか」
男なら居るけど。玄関には私のパンプスとかのん君のハイヒール。そう見えなくても仕方ないか。
「お前、なにブロックしてんだよ。連絡も寄越さないで。それでも彼女か?」
「……彼女じゃない!」
「はぁ?」
「ハルオ、あんた好きな人が出来たっていったじゃない」
「……まぁ言ったけど」
一方的に説教モードに入ったハルオはその一言で少し口を濁らせた。
「なによ? その子にフラれでもしたの? 私はとっくに別れてるつもりですからね!」
本当はメッセージが来た時にハルオにぶつけたかった言葉が口をついて出る。それを聞いたハルオの顔がみるみる怒りで赤く染まっていった。
「真希! お前生意気だぞ」
ハルオの腕が伸びて、私の腕を強く掴んだ。痛い。
「離してよっ!」
その手を振り払おうとしたが、悲しい事に男の力の前にびくともしなかった。私とハルオはお互い鋭い目をしながら睨み合った。
「はーい、そこまでー」
そんな空気を壊したのはかのん君の涼やかな声。
「ダメだよー、女の子にはやさしくしないと」
腕を組んだかのん君が玄関の私達に向かって近づいてくる。表情こそ笑顔だが、その目は笑っていなかった。
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