ふわふわのメロンクリームソーダ。小さい頃大好きだった。キラキラの緑のソーダに白いバニラアイスが溶けていく。てっぺんには大事な赤いチェリー、かわいくてなかなか食べられなかった甘酸っぱいチェリー。それが、私に語りかけている。
「ねえねえ、大丈夫?」
「……へ、え?」
「立てる?」
「あ、ああ……ほら、たてますぅ……」
「危ない!!」
よろけた私は、ぽふんと誰かに抱き留められた。ふわっと香るバニラの香り。そこからまた私はふわふわのメロンソーダの夢の中に落ちていったのだった。
「そろそろ七時だよー!?」
「うーん、今日は休みだからへいきー」
「そう、なら良かった」
優しい声が降ってくる。朝のあかるい日差しがカーテンの隙間がら漏れている。かすかに風に揺れるそれは爽やかなミントグリーン。それを目にした私は急に我に返って飛び起きた。この間取り、ベッドの位置……。これは私の部屋じゃ無い!
「ふぇっ、ここどこ!?」
「あー……そっからかー」
慌てふためく私の後ろから聞き覚えの無い若い男の声がした。昨日、散々酔っ払ったのまでは覚えている。それで私は見ず知らずの男の家に転がり込んだのか……。急にガンガンと頭が痛くなって来た。
「大丈夫、気分悪い……?」
心配そうな優しい声。一応そっと着衣の乱れを確認する。あ、うん大丈夫そう。
「ああ、いえこちらの問題で……」
そこで私ははじめて顔を上げた。……そして絶句した。そこに居たのは緑の髪をした華奢な見たこともない位綺麗な男の子だったのだ。
「そう、良かった」
その瞳は薄い金色。――カラコンだ。よく見たらメイクもしてる。
「メイク……? それ……」
「あ、これ? そう、俺の趣味みたいな?」
あんまり綺麗にお化粧してあるので、不快感は無い。と、いうかとても似合っている。
「あっ、私メイクしっぱなしで寝ちゃった!」
それに対して私はなんだ。昨日はぼろぼろ泣いた記憶もあるし、きっとひどい顔をしているに違いない。
「うん、悪いと思ったんだけどお肌に良くないからね。これで取って置いたよ」
その手にはメイク落としシートのボックスが握られていた。
「ああああああ……」
「わっ、どうしたの」
「自分が情けなくて……」
酔っ払って前後不覚になった上に、メイクまで落として貰ったなんて……信じられない。しかもこんな見ず知らずの。あ、私この男の子の名前も知らない。
「あの、今更なんですけど……私、長田真希って言います。あなたは……」
「俺は、かのん」
しれっと彼は答えた。かのん……ってそれ名前か!? いや、いかにもかのんって感じなんだけど。
「ところで真希ちゃん」
「は、はいっ」
「朝ご飯作ったんだけど、食べる?」
「え、そんな悪いです」
「もう作っちゃったから」
うわーん、何この超絶いい人。すぐにでもたたき出し出されたって仕方ないのに。それじゃあ……とキッチンのテーブルに向かうとまるでSNS映えの見本のような朝食が並んでいた。カリカリベーコンと目玉焼きの乗ったトーストにトマトのスープ、それからグリーンスムージー。
「こ、これ食べちゃっていいんですか……」
「うん、朝は基本だよ。ちゃんと食べないと」
「い、いただきます……」
とりあえずスープから。酸味と塩気が酒で荒れた胃にジーンと染み渡る。
「おいしい」
「そ、良かった。ところでさ……聞いてもいい?」
「あ、はい何でも」
「なんで昨日、あんな所でぶっ倒れてたの。危ないよ」
あんな所、どこでどうしていたのだ私は。なんと答えたもんだろうか。
「……昨日、誕生日で」
「うん」
かのん君の長めの前髪からヘーゼルの瞳が心配げに覗いている。私は昨日散々流した涙がまた湧き上がってきそうになるのをぐっと堪えて言葉を続けた。
「それで彼氏とご飯の約束してたら、別れ話されちゃって」
そこで私は口を結んだ。言葉にすればそれだけ。そう思ってしまうと自分自身もちっぽけに思えてまた泣きたくなった。
「それで飲み過ぎちゃったんだ」
「あの、ここどこですか?」
「高円寺だよ。駅前にコーヒー握りしめて座り込んでたからさ、声かけたら」
そこで、かのん君はふふっと笑った。
「クリームソーダがどうたらって……コーヒー持ってるのに……ふふっ」
「あああ!! ごめんなさい」
夢じゃ無かったんだ。目の前に揺れるかのん君の緑の髪。これがクリームソーダに見えてたのか。酔っ払いって怖い。
「お嫁さんになるんだなるんだってずっと言っててさ」
「ああ~」
「俺にしがみついて離れなくて一時間も話してたんだよ? 何も覚えてないの?」
「あの、その……はい」
正直にそう答えると、はじめてかのん君の眉が不快そうにキュッと寄せられた。
「ふーん、ショックだなぁ。元彼の話も今はじめて出たし」
「はは……それはご迷惑をお掛けしました……」
「じゃあこれも覚えてないんだ?」
「な、なんでしょう」
私が向かいに座ったかのん君をじっと見つめると、かのん君はキュッと口角を上げて怖いくらい綺麗な笑顔でこう言った。
「俺のお嫁さんになるって」
「え!?」
「約束したんだよ、昨日」
「ええええええええ!!!!」
私は驚きのあまり勢い良く立ち上がった。多分手作りのグリーンスムージーがこぼれそうになる。
「ごめんなさい、私本当に酔っ払ってて。迷惑かけて……あの、すぐ出て行くんで!」
「待ってよ、分かった分かった。真希ちゃんは酔っ払ってて記憶が無いんだよね?」
「はい」
「じゃあ、自己紹介からはじめよう。俺は加藤南、二十三歳。フリーターでたまにモデルもしてる。かのんっていうのはモデル名ね。好きな事は綺麗になる事。メイクも、派手髪もネイルもピアスもハイヒールも大好き。はい、真希ちゃんは?」
「あ、あの長田真希、二十六歳。会社員です。好きな事は……うーん登山……かな」
「へぇ、山行くんだ」
「年に何度か低い山ですけど……ってこれ、なんなんですか?」
思わずかのん君につっこむと、彼はとても愉快そうに笑いながらこう答えた。
「うーん? そうだなぁ、真希ちゃんは俺の事どう思う?」
「え、そうですね……ちょっと変わってる?」
「あははっ、正直だね」
「あ、でもっ。すごく、その……か、かっこいいですっ」
「うふふ、ありがと。俺は変わってるの大好き。だから変わった出会いも大好き」
ん? それはどういう事なんだろう。理解が追いつかずに首を傾げるとかのんくんは私の首に手を回した。
「あの、あの……」
「俺、真希ちゃんの事好きになっちゃった」
「ええええええええええええ!!!!」
突然の告白に一瞬頭が真っ白になる。馬鹿みたいに開きっぱなしの口にかのん君が人差し指を押し当てた。
「真希ちゃんは俺の事嫌い?」
「いやその、嫌いじゃないですけど」
「そっか、よかった」
そのままかのん君の腕が私を引き寄せ、私の唇を奪った。視界がクリームソーダ色に染まる。
「俺、絶対真希ちゃんを幸せにするからね。返事は?」
「ふぁ、ふぁい……」
へなへなと身体から力が抜けていく。昨日、彼氏にふられたのに。もう彼氏が出来たって事? しかもこんな、私より綺麗な男の子が私の彼氏?
「さ、ご飯冷めちゃうから早く食べよ」
当のかのん君はそう言って落ち着いた様子で朝食を食べ始めた。つられて私もトーストを口にしたけれど、映え映えなモーニングも何の味もしなかった。あー! もう何なんだ?
「ねえねえ、大丈夫?」
「……へ、え?」
「立てる?」
「あ、ああ……ほら、たてますぅ……」
「危ない!!」
よろけた私は、ぽふんと誰かに抱き留められた。ふわっと香るバニラの香り。そこからまた私はふわふわのメロンソーダの夢の中に落ちていったのだった。
「そろそろ七時だよー!?」
「うーん、今日は休みだからへいきー」
「そう、なら良かった」
優しい声が降ってくる。朝のあかるい日差しがカーテンの隙間がら漏れている。かすかに風に揺れるそれは爽やかなミントグリーン。それを目にした私は急に我に返って飛び起きた。この間取り、ベッドの位置……。これは私の部屋じゃ無い!
「ふぇっ、ここどこ!?」
「あー……そっからかー」
慌てふためく私の後ろから聞き覚えの無い若い男の声がした。昨日、散々酔っ払ったのまでは覚えている。それで私は見ず知らずの男の家に転がり込んだのか……。急にガンガンと頭が痛くなって来た。
「大丈夫、気分悪い……?」
心配そうな優しい声。一応そっと着衣の乱れを確認する。あ、うん大丈夫そう。
「ああ、いえこちらの問題で……」
そこで私ははじめて顔を上げた。……そして絶句した。そこに居たのは緑の髪をした華奢な見たこともない位綺麗な男の子だったのだ。
「そう、良かった」
その瞳は薄い金色。――カラコンだ。よく見たらメイクもしてる。
「メイク……? それ……」
「あ、これ? そう、俺の趣味みたいな?」
あんまり綺麗にお化粧してあるので、不快感は無い。と、いうかとても似合っている。
「あっ、私メイクしっぱなしで寝ちゃった!」
それに対して私はなんだ。昨日はぼろぼろ泣いた記憶もあるし、きっとひどい顔をしているに違いない。
「うん、悪いと思ったんだけどお肌に良くないからね。これで取って置いたよ」
その手にはメイク落としシートのボックスが握られていた。
「ああああああ……」
「わっ、どうしたの」
「自分が情けなくて……」
酔っ払って前後不覚になった上に、メイクまで落として貰ったなんて……信じられない。しかもこんな見ず知らずの。あ、私この男の子の名前も知らない。
「あの、今更なんですけど……私、長田真希って言います。あなたは……」
「俺は、かのん」
しれっと彼は答えた。かのん……ってそれ名前か!? いや、いかにもかのんって感じなんだけど。
「ところで真希ちゃん」
「は、はいっ」
「朝ご飯作ったんだけど、食べる?」
「え、そんな悪いです」
「もう作っちゃったから」
うわーん、何この超絶いい人。すぐにでもたたき出し出されたって仕方ないのに。それじゃあ……とキッチンのテーブルに向かうとまるでSNS映えの見本のような朝食が並んでいた。カリカリベーコンと目玉焼きの乗ったトーストにトマトのスープ、それからグリーンスムージー。
「こ、これ食べちゃっていいんですか……」
「うん、朝は基本だよ。ちゃんと食べないと」
「い、いただきます……」
とりあえずスープから。酸味と塩気が酒で荒れた胃にジーンと染み渡る。
「おいしい」
「そ、良かった。ところでさ……聞いてもいい?」
「あ、はい何でも」
「なんで昨日、あんな所でぶっ倒れてたの。危ないよ」
あんな所、どこでどうしていたのだ私は。なんと答えたもんだろうか。
「……昨日、誕生日で」
「うん」
かのん君の長めの前髪からヘーゼルの瞳が心配げに覗いている。私は昨日散々流した涙がまた湧き上がってきそうになるのをぐっと堪えて言葉を続けた。
「それで彼氏とご飯の約束してたら、別れ話されちゃって」
そこで私は口を結んだ。言葉にすればそれだけ。そう思ってしまうと自分自身もちっぽけに思えてまた泣きたくなった。
「それで飲み過ぎちゃったんだ」
「あの、ここどこですか?」
「高円寺だよ。駅前にコーヒー握りしめて座り込んでたからさ、声かけたら」
そこで、かのん君はふふっと笑った。
「クリームソーダがどうたらって……コーヒー持ってるのに……ふふっ」
「あああ!! ごめんなさい」
夢じゃ無かったんだ。目の前に揺れるかのん君の緑の髪。これがクリームソーダに見えてたのか。酔っ払いって怖い。
「お嫁さんになるんだなるんだってずっと言っててさ」
「ああ~」
「俺にしがみついて離れなくて一時間も話してたんだよ? 何も覚えてないの?」
「あの、その……はい」
正直にそう答えると、はじめてかのん君の眉が不快そうにキュッと寄せられた。
「ふーん、ショックだなぁ。元彼の話も今はじめて出たし」
「はは……それはご迷惑をお掛けしました……」
「じゃあこれも覚えてないんだ?」
「な、なんでしょう」
私が向かいに座ったかのん君をじっと見つめると、かのん君はキュッと口角を上げて怖いくらい綺麗な笑顔でこう言った。
「俺のお嫁さんになるって」
「え!?」
「約束したんだよ、昨日」
「ええええええええ!!!!」
私は驚きのあまり勢い良く立ち上がった。多分手作りのグリーンスムージーがこぼれそうになる。
「ごめんなさい、私本当に酔っ払ってて。迷惑かけて……あの、すぐ出て行くんで!」
「待ってよ、分かった分かった。真希ちゃんは酔っ払ってて記憶が無いんだよね?」
「はい」
「じゃあ、自己紹介からはじめよう。俺は加藤南、二十三歳。フリーターでたまにモデルもしてる。かのんっていうのはモデル名ね。好きな事は綺麗になる事。メイクも、派手髪もネイルもピアスもハイヒールも大好き。はい、真希ちゃんは?」
「あ、あの長田真希、二十六歳。会社員です。好きな事は……うーん登山……かな」
「へぇ、山行くんだ」
「年に何度か低い山ですけど……ってこれ、なんなんですか?」
思わずかのん君につっこむと、彼はとても愉快そうに笑いながらこう答えた。
「うーん? そうだなぁ、真希ちゃんは俺の事どう思う?」
「え、そうですね……ちょっと変わってる?」
「あははっ、正直だね」
「あ、でもっ。すごく、その……か、かっこいいですっ」
「うふふ、ありがと。俺は変わってるの大好き。だから変わった出会いも大好き」
ん? それはどういう事なんだろう。理解が追いつかずに首を傾げるとかのんくんは私の首に手を回した。
「あの、あの……」
「俺、真希ちゃんの事好きになっちゃった」
「ええええええええええええ!!!!」
突然の告白に一瞬頭が真っ白になる。馬鹿みたいに開きっぱなしの口にかのん君が人差し指を押し当てた。
「真希ちゃんは俺の事嫌い?」
「いやその、嫌いじゃないですけど」
「そっか、よかった」
そのままかのん君の腕が私を引き寄せ、私の唇を奪った。視界がクリームソーダ色に染まる。
「俺、絶対真希ちゃんを幸せにするからね。返事は?」
「ふぁ、ふぁい……」
へなへなと身体から力が抜けていく。昨日、彼氏にふられたのに。もう彼氏が出来たって事? しかもこんな、私より綺麗な男の子が私の彼氏?
「さ、ご飯冷めちゃうから早く食べよ」
当のかのん君はそう言って落ち着いた様子で朝食を食べ始めた。つられて私もトーストを口にしたけれど、映え映えなモーニングも何の味もしなかった。あー! もう何なんだ?