図書室の本棚の陰から、薄幸の美少女が姿を現す。


「、金子さん」


百瀬が小さく名前を呼んだ。


この前ここで見かけた子。いつも図書室で会うらしい、図書室でしか会わない、一学年下の金子さん。今日も金子みすずの本を胸元に抱えている。


その目は今日はわたしを無視することなく、非難の眼差しいっぱいでこちらを見据えていて。


話を中断してしまった百瀬とわたしの間を風が通り抜ける。窓なんて、いつの間に開いてたんだろう。風は冷たすぎて、まるで壁ができてしまったみたいに感じる。


「えっと……金子さん」


恐る恐る声をかける。


聞かれて、いたんだろうか。


「あなたに話しかけられたくありません。だから一方的に言います」


「なっ」


「日紫喜みのりさん。あなたは卑怯です。百瀬さんを都合のいいように扱ってばかりです。……百瀬さんは、私に言いました。あなたを唯一無二の人だと。どれくらい大切にされているか解っていますか? どれほど、想われているのか」


その一方的な金子さんの言葉で、全てを知っていると分かる。分かったのはそれだけじゃないかもしれない。いや、そうなんだ。


馬鹿なわたしが分かる。それくらい、きっと金子さんは、この図書室で百瀬との時間を過ごしてきたんだ。


わたし以上に。