間宮くんのわたしへの呼称から、『さん』が消えた。
「っ、なんでよ」
「いつも楽しそうにしているから」
「まるでバカにされてるみたい」
「やっすい神に誓うよ。断じてそのようなことではない」
その変化や駆け引きによる間宮くんの意図が掴めない。言われたような楽しそうな子なら、この学校に盛り沢山だ。何故こんなどうもしない女子に言う。男子に白羽の矢を立てればいいのに。間宮くん、友達が少ないこともないし……。
「あと、ボク、じいさまの孫なんだよ。実は」
「?」
「日紫喜に片想いしていたじいさまだよ。さっき夏って言ったら反応したから、忘れてはいないだろう?」
「っ、――そんなこと……」
……忘れられるわけ、ないじゃない。
夏、秋にもかけての三ヶ月間、わたしに花束を渡したくて――厳密にいえばわたしじゃなかったんだけど――学校近くで頻繁に出会ったおじいさん。名前を洋助さんといって、とてもとても純粋な人だった。
洋助さんは、今は遠方の施設で療養生活をしている。らしい。
わたしは……洋助さんに最後まで優しく出来なかった。