「……なんでそんな早いのよ。しかも汗ひとつかいてないって……」
間宮くんは、クリーニングから返ってきたばかりみたいな制服を着て、涼やかな様子で椅子に腰掛けていた。足を組む姿が優雅で神経を逆なでされる。
「ああ、日紫喜さん。ボクの向かいに座って。それと、胸元のボタンがひとつ外れているよ」
などと照れもせず言い放たれ、慌ててボタンを留めながら、渋々言われた通りに間宮くんの向かいの席に。
わたしから話題をふる責任はないのでお昼御飯の準備にとりかかる。
約束はお弁当を一緒に食べること。食べてしまえば任務は完了だと、素早くお弁当箱を開けた。日によって変わるお弁当箱は、今日は正方形の深い、竹の網代編みのもので。中身が推測出来て戸惑ったけど、覚悟を決めて蓋を開けた。
「……」
「おや、インパクト大。食べごたえのある弁当だ」
昔ながらの容器に入った今日のわたしのお弁当は、大きなおにぎりが二つ。お母さんが作るおにぎりは握力を総動員して握られているものだから、重量、密度が尋常じゃない。体積としては、世間様の口に含むとほぐれるふっくらおにぎりの二倍、いや三倍はあるに違いない……これじゃ食事時間のスピードアップを図れない。
「……お母さん、おかずの味つけ失敗しちゃうと誤魔化せるからってこうするの。断言、卵焼きはきっと辛い」
松花堂弁当みたいな自分の上品なそれと見比べる間宮くんを前にして少し恥ずかしくなり、思わず弁解してしまった。