「お久しぶりです、百瀬さん」
「ぎゃっ」
すみれの精のような可憐な声で百瀬へ挨拶したのは知らない声。何かが潰れたような効果音もどきを発したのはわたしの口。前を歩く百瀬が突然立ち止まったから、ぶつかってしまったのだ。
「二日振りに久しぶりは必要ないよ、金子さん」
どうやら二人は知り合いのようで。
百瀬の背後からひょいと顔を出して可憐な声の主を確認すると、それはそれは声に全く違わない可憐な女の子だった。薄幸の美少女然。色白で儚げな雰囲気。夕焼けに溶けていってしまいそうな華奢な身体つき。長い髪はシルクみたいで艶やかな黒、淡い風にもさらさらと絶えず靡くのに決して絡まらないまま揺れる。小さな顔の中には大きな目が黄金比で配置されている。唇はぷっくりしていて桜色――美味しそう。
驚いた。ここには、百瀬とわたし以外には気配がなかったものだから。その人の気配に。
可憐な少女の金子さんは、わたしの存在が見えていないみたいに百瀬と世間話に興じる。
「今日はもうお帰りですか?」
「うん。最近はすぐ暗くなるから。金子さんも早く帰りましょう。――行こう、みーちゃん」
「あ、うん」