まるで何事もなかったかのように、百瀬が先に歩き出す。本棚の間を浮遊するみたいな百瀬は、歩く途中に時々飛び出し気味な本に目を留めると、それを奥に戻しながら先へ行く。その姿を、わたしはわりと気に入っていて後ろから秘密裏に見つめている。


その指が、腕が身体が、さっきまでわたしの近くにあったと確認してしまうのは、わたしがいやらしいだけなんだろうか。


百瀬はそれ以上触れてこなかった。少し前まで、ある出来事の為に繋がれていた手も、今はかすりもしない。


ただ、さっきみたいに、時々、百瀬はわたしを抱きしめる行為をする。わたしの了解を得て。


わたしは、それを断れたことが……いや、断ったことは、ないけど。


答えは、まだ出せていない。