そのとき、
ふわりと、わたしを包む空気が変わった。
「洋助さんは幸せだった。僕も、とても幸せだった。嫌なことなんて、背負わされた荷物なんて、ひとつもない。感じた罪悪感は、みーちゃんと一緒にいる為に、少なからず洋助さんを利用したことへのものだ。可能なら、僕だって全てを誠実でありたかった」
でもそれは不可能だ。百瀬はわたしを優先すると言う。だから、他には全てでいられない、と。
「……百瀬……わたし、プール臭い。それに土まみれ」
ふわり――わたしは百瀬に抱きしめられていたた。
「うん、構わない。みーちゃんならどんなでも。嫌じゃ、ない?」
「――よく、わかんない」
じゃあまだ足りないのかな、僕も足りないよ。耳元で熱い吐息と一緒に囁かれ、百瀬はもっと強くわたしを抱きしめた。
呼吸が乱れる。けど、これは苦しさからじゃないことだけはわかる。肩がびくりと動きそうになるけど、百瀬に抱きしめられてはそれも押し留められてしまう。
今日初めて認識した、わたしより大きな百瀬の身体。密に接触てみると、その筋肉、骨の感触がとても伝わってきて、より自分との違いを感じさせられる。
心臓が早鐘を打つとはこういうことなんだと、今をもって実感した。
百瀬の鼓動を感じる。わたしと同じように早い。
わたしと同じ? 百瀬も同じ?
みんな、同じようにわからないことがある? 迷う? 矛盾してる? 後悔をするの?
「みーちゃん」
「っ!!」
再度囁かれた耳元が、今までの人生でとびきりの熱を帯びる。触れているから、声が耳以外からも響いてくる。だから全部が熱くなって。
恥ずかしくてたまらない。