「良かったね、みのり。大輔とも言ってたの。みのりの家まで送っていこっかって」


「小夜~ありがとっ」


「幹二くんにもちゃんと言うのよ」


「うんっ」


それくらいは、わたしだって心得てる。百瀬に聞こえるまでの距離にてこそりとされた小夜からの助言に従うように、わたしは校門へと歩を進める。


百瀬に駆け寄ると、その鼻の頭が少し赤いみたいだった。夏の日差しは百瀬を何分で焼いてしまうんだろうと逆算しながらお礼を言う。どうもありがとう。そう言うと、良く似合う眼鏡を直しながら、百瀬は頷く。


「たまにはみんなと帰りたかったしね」


「だったらさ、幹二もオレらと一緒に水泳部、しよーぜ」


百瀬の言葉に誰よりも喜んだのは他でもない大輔だ。でも、小夜もわたしもそれは嬉しくて、顔を見合わせて笑う。


柔らかい空気でわたしたちは満たされた。


百瀬は、タイミングの計り方とか、負担を与えない気配りとか、そういうのが本当に、とても上手だと思う。人見知りじゃないんだから、もっとその才能を活かせばいいのに、あいにく、わたしたちの間でしか使用しない。本人は謙遜するし、出来ているのだとしたら、それはわたしたちがいてくれて、わたしたちの前だからだと聖人みたいに照れる。


でもそれが、小夜も大輔もわたしも好きだったりする。「しかたないね」と、そんなふうにみんなで苦笑いする時間が、とても心地いいんだ。