「ヘクショイッ」
オジサンみたいなくしゃみをしてしまったわたしに、百瀬が何かを渡してくれた。カバンに忍ばせてあった濃紺のカーディガンだった。
「ほら、言っただろう。身体が冷えたんだ。髪だってまだこんなに濡れてるし」
心配だと百瀬が言う。けど。
「百瀬だって寒いんじゃない?」
「僕はそんなに軟弱ではありません。寒くはないし、こんな時に自分以外を優先してどうするんだよ。――少しくらい、守られててよ」
「う、ん……」
事実ありがたくて助かった。言われた通り身体は冷えてきていて、このままでは風邪だという予感もしていたから。
着込ませてもらったカーディガンに、思わず心臓が跳ねた。わたしとそう変わらないはずの百瀬の身体は、わたしよりずいぶん大きかったことを知る。カーディガンの肩の位置が違う。手は指先さえ出ず。本来は腰くらいだろう着丈は、きっと立ち上がったらもっと長い。大きなサイズで着るのは嫌いじゃないけど、これではきっと日常に不便だ。
全部、わたしより……。
「百瀬はホントに立派だね。偉いね。いつの間にか、立派な男の子だね」
豆モヤシなんて言ってごめんなさい。毎日隣にいると、成長というのは知られにくいんだね。
「やっと気づいた? ……けどまだまだ。こんな時、助力なしには守りたい人も守れないなんてね」
「独りで全てをなんて、そんなの神様だけだよ。抱え込まずに割り振りするのも男らしいよ」
「ありがとう」
「そうでないと、長生きして好きな人とずっとなんて夢、叶わないんだから」
「――うん。ありがとう」
わたしは、その『ありがとう』がたまらなく嬉しかった。
髪を直す素振りで口元を隠す。――良かった。多分気持ち悪くにやけているだろう表情を隠せるくらい大きなカーディガンで。
「あっ」
百瀬が地上を振り返り、そしてすぐにわたしを見下ろした。
「助け、来てくれたよ」
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