不条理だけど、そのひどく純粋に感じてしまった物語に、わたしは泣きそうになる。
「……わたし、好きな人とは、ずっと健康で、長く永く寄り添っていたいって、きっと願うと思うんだ。でも、なんで羨ましくもなっちゃうんだろ」
絡めとられていた髪はようやく解放され、もう一度、頭を撫でられる。仕草はとんでもなく丁寧に、宝物を扱うみたいに。
「きっと、恋に生きた人たちだからだよ。世の中は、恋人だけを優先してなんて、実際生きていかれない。わかってて、だから、出来ないからこそ憧れる」
「……」
「それとね、僕もみーちゃんと同じ。好きな人とは、誰にも負けない、幸福な永遠を願うよ。願うだけじゃなく、現実にだってしてみせる」
きっと――こんな穴の中。きっと、日常を離れた状況だから、わたしたちはこんなこと言い合えるんだ。
だから、こんなにも急に、ドキドキするんだ。百瀬に。
空は、もうすっかり紺色へと変わっていた。月が、狭い穴の中からも僅かに見える。淡く光る景色は、洋助さんが残していった花の匂いと相まって、より一層幻想的だ。
ついでに、百瀬に後光が射しているみたいにも見えて。
そのせいだろう。確信する。
「百瀬はちゃんと長生きして、好きな人と幸せになれるよ」
「それ、責任持って言ってる? みーちゃん」
「うん。もちろん。針千本だよ」
だって確信したんだ。百瀬は、幸せになれる人だ。なっていける人。そうじゃなければ、わたしも悲しい。
肯定の言葉に百瀬は破顔した。
わたしも、いつかあんな甘い顔を知らず浮かべられていたらいい。