その人――おじいちゃんはそれだけをわたしに伝えると、今日も持っていた花束のリボンを解き、穴の中に降らせた。青と白の、夏空みたいな花たちだったそれで一瞬視界が埋まる。
気づいてくれたのは、おじいちゃんだった。
はらはらと。解けた花たちが僅かな時間差で降ってくる光景は、穴の中から見上げるには美しすぎて眩しかった。夕日がもうすぐ沈む薄暗さが、花を引き立ててくれていたからなのかもしれない。
最後の一輪、白い花越しに、百瀬の顔。少し眉を寄せて、わたしを心配してくれていた。
……バカ。ついさっき、笑ってくれたっていうのに。
最近の百瀬は表情が豊かだ。以前が仏頂面ということでもなかったけど、何かが変化しているような。
それとも、わたしが気づかなかっただけ?
「全てがね――」
百瀬が言う。
「おじいさん。全てが、いつも、常に、悪い状態じゃないんだ。むしろ普通の時が多いくらい。だからね、葛藤してたんだって。まだここを離れたくない。……でも、周りにどれだけ心配をかけてしまうかも理解していて」
「ぁ……っ」
「だから、っていう安心のさせ方もどうかと思うけど、今だけは。おじいさん――洋助さんっていうんだけど、ちゃんと助けを呼びに行ってくれてるから」