けど、世界は何も変わっていなかった。
「みーちゃんっ!?」
わたしの身体が反転しただけで世界はなにも。
足元にあった大きな石を飛び越え、いつもの道へ戻ろうとしてわたしはつまずいたらしい。何歩かよろめいた先は林道の“林”の方。
そしてさらに運悪く、そこには穴があった。
どこまでも落ちていってしまいそうな、まるでブラックホールみたいに感じたその穴は、実際そこまでの深さではなく、けど、お尻から落ちてそのまますっぽり身体が収まるくらいには深いものだった。頭より少し上に地面があるなんて人生で初めてだ。
慌ただしく足音が駆け寄ってくる。
「みーちゃんっ!!」
呆然とするアクシデントに、わたしはかえって冷静になれた。
「平気。――ね、百瀬。これって、大きな木をすっごく丁寧に掘った跡? 悪戯? 案外底は柔らかいからよかったけど、掘ったなら埋めてほしいよね」
「怪我はっ?」
「ないよ。けど……お尻……抜けないかも」
穴の中。わたしは体育座りの格好で見事にはまり、柔らかくて助かったように思えた土のせいでお尻がずんと埋まってしまっているから、抜ける気配がない。地上に伸ばした手は、なんとか地面に掛けることができたけど、埋まったわたしはビクともしない。穴の断面図があれば、きっと爆笑ものだと思う。
「僕が引っ張るから」
「うん、お願い」
……けど、百瀬がいくら引っ張ってくれても、わたしのお尻はびくともしない。無理な気配が漂うばかり。
百瀬の頑張り空しく、時間は過ぎていくだけだった。