十月初旬の悲しきこと。今日はプールでの部活が最後の日だった。
うだうだと名残を惜しむわたしに鍵を預け、大輔は先に行ってしまった。小夜は今日に限って風邪で欠席。己の不摂生を嘆く長いメールが朝に届いた。
夕方だからもう帰れと下校を促すチャイムが鳴って、そこで冷えた肩の存在に気付く。水中から上がったおでこは汗がまだ滲んできそうなのにおかしな感じ。
小夜の分までと充分堪能してから、慌ただしく着替えをする。わたしで最後の部室に鍵をかけ、濡れた髪はそのままで電話をかけた。
数分の後、昇降口で合流することは、もう普通となった待ち合わせの光景だ。
「あれっ? 大輔いない」
「先帰った。みーちゃんが遅いのが悪いって」
「だって最後だったし。でも、ごめん。百瀬はもっと待ったんだもんね」
「いいって。次からは泳げなくて残念だね」
「そうだよ、まだ暑いのにねっ。髪だって放っておいても乾くのに」
若干きしむ髪に指を通すと、敢えなく途中で引っ掛かる。ちゃんと手入れをしようと思うと学校では無理な話で。プールがある日は、早めのお風呂で念入りにと決めている。
「それはいけない。もう朝晩は冷えたりするんだ。風邪をひくよ。僕はカバンに一枚入れてる」
そう言って、百瀬は借りてきた本をカバンにしまうついでに、濃紺のカーディガンの袖部分を引っ張り上げる。でもまだまだ暑い日々は、それを活躍させてはくれなさそうだけど。
「確かに、肩はちょっと冷えた。……ていうか、まだ誰も持ってきてないよ、女子の中でも」
「いざという時があるかもしれないじゃないか。」
体感温度の異なるらしい百瀬と、ここ数年の季節の移り変わり方の変化についてを議論し合いながら帰路につくことにした。