夢の列車に乗せられ、ぼうっとしながら道を歩くわたしは、側溝に落ちそうになったこともある。百瀬が気づき、手を引っ張られ助けてもらい、九死に一生を得たけど。
得たけど。すると、夢の列車は各駅停車の速度から新幹線のに変わり、何処か違う次元に連れられて行ってしまうような感覚を受ける。意味がわからない。百瀬はわたしを、そんな強く引っ張ったわけではないのに。
「また小さい頃みたいに落ちるの?」
「今日は自転車一緒じゃないもんねっ」
ああ。だからスピードが増したのか。昔の墜落体験を思い出して、心臓が早鐘を打ったんだとひとまずの解釈を結論づけると、納得する。
高速の乗り物は苦手。速いと物事を冷静に考えられなくなる。結論を迎える前に次の場所へと到着していて、馬鹿なわたしは、疑問自体を忘れてしまう。
「泳ぎきったあとっていうのもいけないんだ。気力体力が落ちてる。うん。きっと」
「そう? じゃあ、僕がずっと手を引いていってあげるよ。目を閉じて帰っても安全なくらい丁寧に」
すっと伸びてきた手から華麗に逃げる。
「いいですっ」
断ると、百瀬は頷き、そして笑った。どうやら今日は気分がいいらしい。
「みーちゃん。宿題、終わりそう?」
「全然」
「教えてあげるくらいはしてあげよう」
「いつ?」
「いつでも」
「大輔たちも喜ぶよ」
「うわっ。それはとんでもなく面倒だ。みーちゃんだけが僕はいいよ」
そんなふうに、それなりに楽しい夏休みだった。
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