――……
それは、とある朝の押し問答だった。
「……先生。わたしの貞操の危機なんですけど」
と言っても、暖簾に腕押しとはこういう状況を表すんだろう。さっきから言葉こそ違えど同じことを繰り返すわたしは、それでもしつこく食い下がることをやめはしない。
職員室の一角。座ったままの担任は、わたしに見下ろされながら視線を逸らす。逸らした先の他の先生も、わたしから逃れようと誰とも意思の疎通が出来そうもない。……ムカつく。唯一合ったと思った目は、ガラスに映る自分だった。
「いっ、いやっ、そんなのだったら先生もなんとかするぞっ。……けど、そんなもんでも、ないだろう」
「ひどいっ!!」
「あちらのご家族も気をつけると仰ってくれているし、あと三ヶ月ほどで引っ越されるようだし……なっ? ……あの人は、立派な校長だったわけだし…………」
……つまり、そういうこと、なんだろう。
「わっかりました。大人の事情なんてくそくらえっ!! ですけどねっ!!」
言い放ち、職員室の扉を勢いよく閉めて退室した。
扉にはめられたガラス部分が大きく震えて音が響く。室内からはざわめきが、廊下からは奇異の視線がわたしを責めた。
でも気にしない。これくらいはしてもいいレベルだ。