図書室の軽い引き戸を静かに開ける。わたしたちが一番乗りだったらしく、窓は全部施錠されていた。蒸された空気に一瞬で包まれる。


図書室に来るのは久しぶりだった。


わたしも、この空間は嫌いじゃない。蓄積された膨大な本の匂いが充満していた。国会図書館の立ち入り制限区域みたいに丁寧に保管されてはいない、思い思いに、たくさんの人に読まれてきた本の匂い。


けど、今のわたしは、それらよりも塩素の匂いと水音に引き寄せられる。


こんなわたしじゃ、百瀬みたいにここに溶け込めない。異端だな。


風を入れようと、百瀬が近いところから窓を順に開けていく。わたしもそれを手伝い、反対側から同じようにする。


最後の窓に手をかけた時、見える景色の中にはあのバス停もあった。ちょうど、おじいちゃんが帰るところで、ご家族の運転してきた車に乗り込んでいる。


「……なんで、わたしなんだろう」


そこに、意味なんて、ないのかもしれないけど。


窓枠にひじを置き頬杖をつくわたしの横に百瀬が並ぶ。


「理由はきっとあるんだ。考えなしの、誰でもいいって、そんなのとは違うって思おう。――そっちのほうが、みーちゃんは辛いかな?」


「そんなこと……」


「――うん」


百瀬は、優しい。


わたしは、自分に優しい。