色々と用心して早めに登校することにする。もう午前中授業だけにはなってるけど、部活用のお弁当をカバンに入れていたとき、百瀬が迎えにきた。そんなの小学校の集団登校以来かもしれない。
玄関を開けた門扉の向こうには、新しい携帯電話を手にした百瀬が立っていて。
「――最新だね、それ」
「そうだね。昨日、あれから機種変しに行ったんだよ。前のは壊れてたし」
百瀬の携帯電話はスマートフォンじゃなくてなかなかの旧式だった。もうずいぶん長い間調子はおかしくて、通話が繋がらないことや、メッセージのやりとりをするためのメールも届いているのだかいないのだかは知らないけど読んでいないかことが時折あった。知らず電源が落ちていたりもしたらしい。でも、そんなに不自由はないと当人は悠長に構えていたんだけど。
「昨日って、寝てたほうが良かったんじゃない? もう大丈夫? わたしが言うのもなんなんだけど」
倒れたよね。
昨日、突然顔見知りのおじちゃんから花束片手に迫られるという体験をしたわたしは、ひとりの帰り道がちょっと怖いからと、百瀬を部活の終わりまで待たせて、暑さで立ち眩ませてしまった。
気遣いなんて今さらかもしれないけど心配なのは本当だ。
「昨日はごめんっ。やっぱりこれからは図書室で待たせてもらうことにする。兄ちゃんに迎えに来てもらうなんてありえない、一生の恥だ」
なのに、反対に謝られた。
「そんなことないよ。昨日はわたしたちまで車に便乗で楽させてもらっちゃった。ありがとね」
図書室に一旦舞い戻って、なんだかんだ言い合っているうちに、そういうことになっていた。