……


腕の中にあった重みを、百瀬はずっと反芻したりはしなかった。


その場から動かないわたしを、百瀬が優しく立たせてくれたのは覚えてる。


いつの間にか、わたしは保健室に戻っていた。






室内は百瀬とわたしの二人きり。


デスク近くの椅子に座らされ、向かい合うように百瀬も別の椅子に腰掛ける。


「傷、少し手当てするね」


救急セットが乗せられたワゴンを引き寄せて、百瀬が手際よく用意を始めた。


やがて、わたしの首筋に薬を塗ってくれて、ガーゼを張り付けてくれ。


「――みーちゃん。きみは、いつも後悔して泣いてばかりだね」


いつかの夜みたいに、止まらない涙は百瀬のカーディガンで拭われた。


「……わたし、金子さんに酷いことしたから……。金子さんから全部奪ってるのに、そんなわたしが謝っちゃ駄目だった」


それを最後の言葉にしてしまった。謝られたくなんてなかっただろう。百瀬を望んで、引き留めたわたしなんかに。


「――うん。そうだね。でも、みーちゃんは奪ったわけじゃないよ。それは僕にも失礼だ」


僕はずっと、みーちゃんだけなのに――呟いた百瀬のことも傷つけてしまったのだと、わたしはもっと涙してしまった。