「だって、わたしだって百瀬が好き。大切なの――」


ただのわたしの我が儘だ。駄々をこねて泣き叫んでみっともない。


「連れて行かないで。百瀬……行かないで……」


脇目もふらず金子さんへ走った百瀬が本当はどうしたいかなんて聞かないまま、こんなふうになってしまうわたしを、もしかしたら二人は嘲笑っているかもしれない。


けど、金子さんの願い事を前に、わたしの願い事も止まらなかった。伝えられるのは、今を逃したら一生来ないかもしれなかったから。




流れた涙は北風ですぐに乾いて目元が強張る。まだまだ枯れない涙で先の景色がよく見えない。


乱暴に目元を拭うと、さっきと同じ体勢のまま、二人はわたしを見つめていた。








やがて、百瀬は首に絡まる金子さんの腕を解いた。


「――ごめんね」


金子さんは、解かれることに素直に従った。


「……はい。そう仰ることくらい分かっていました。」