「あなたにも、何故だか私が視えてしまったから。ただそれだけのことです」
「っ、だったら、別にこんなところで二人きりにならなくてもいいじゃない」
「……」
うっすらと、金子さんの姿が一瞬揺らいで透明に近くなったように感じたのは、わたしの心象風景だろうか。
強い北風がひとつ吹き荒れ、わたしたちの長い髪が舞い上がる。
「その傷、羨ましいですね」
露になったわたしの首筋に金子さんが。
「っ」
「私にも、そんなふうに触れて欲しいと――念じれば、そのようになっていたのでしょうか」
それはまるで吐血みたいに。
わたしの前では出したくもない望みだったらしく、金子さんは悔しげに暫く口をつぐんだ。睨まれると、金縛りにあったみたいに身体が硬直する。……みたい、だなんて逃避かもしれないけど。
風音が貴重な体温を余計に奪っていくような気がして背筋が凍る。風に乗って微かに届く合唱がやけに暖かく感じて、ここから逃げたしたくなる。
はたして、わたしが逃げたいのは何からなんだろう。『--------』の、とても純粋で真っ直ぐで怖いくらいに今綺麗な、金子さんかもしれない。