金子さんはどんどん廊下を歩く。三階の窓からは、さっきまでわたしたちがいた校舎が見える。遠くにさっきの保健室、授業を受けているクラスが幾つも。


「金子さん隠れてっ!!」


「大丈夫ですよ」


「でもっ」


その通りに、授業の合間にふと先生がこちらを見上げたけど、気がつかないまま視線は外れた。


「あそこで――」


金子さんが指差した先には図書室があって。


「――いつも、いつも私は、とても幸せで、苦い気持ちを味わっていました。けれど、嫌ではひとつもなかったのです。見つけてもらえて、向かい合えて、言葉が返ってきて。心が、あるかどうかも怪しいそれが、大きく動いて」


思い浮かべている相手など、一瞬で理解できた。


「……」


「外のことなんて、話してもらえることしか知らなくてよかったというのに、あの人の言葉の先には、いつも知りたくもないあなたが想像出来ました。学校での生活、登下校、友達、将来の夢、全てに、あなたがくっついていました」


「……それでも、金子さんは図書室から飛び出さなかった」


なんて思いやりのない言葉。口にしてから後悔する。


金子さんは保健室を出てから儚い笑顔ばかりで。けど、わたしを見据えるときはやっぱり怒っていた。


「言いました。私は、図書室でないと、と」