ついてきてください――金子さんの言葉は、何故か反論する気を消失させた。催眠術で促されるように、わたしはベッドから降りて保健室の外へと連れ出され。
「ねっ、ねえっ金子さん。休まなくて大丈夫なの?」
「……」
授業中の、誰の気配もない廊下。前方に見える渡り廊下の扉が開いていて、そこから北風が流れ込んでくる。こんなの、病人らしき人には悪影響だ。
「金子さん。保健室はストーブ暖かいよ。もしくは図書室でもいいから移動しない?」
けれど、数歩前を歩く金子さんは歩みを止めない。弱い足取りは、その意思を示していた。
「――楽しい、ものです。こんなことは、おそらく久しぶりなことだから」
「へっ?」
渡り廊下を過ぎて、隣の校舎を隈無く歩く。
「それが例え大嫌いな人とでも、こうやって学校を、――歩くことを躊躇っていた場所へ来てしまったことは、なんて心躍るのでしょう」
階段を上がる金子さんはふらふらとしていて、思わず隣に駆け寄ると、その顔は切なくげに笑っていた。
「っ!?……金子さん。でも、戻ろう?また放課後に散策すればいいんだし、今は授業中だから見つかったら面倒だよ」
「問題ありません。私といれば見つからないのです」