「いやらしい……不潔。淫乱。八方美人」
「誰っ!?」
そのキーワードに思わず首筋の傷を隠した。
保健室に入ってきたのは養護の先生じゃなかった。
可憐な少女みたいな声が、全てでわたしを非難している。
「だから、私はあなたが大嫌いなのですよ――日紫喜みのりさん」
声の正体は、今にも死んでしまうんじゃないかというくらい顔面蒼白な、姿も可憐な少女、金子さんだった。
図書室で、百瀬と一緒のときしか顔を合わせたことがない金子さん。薄幸の美少女然、色白で儚げ、夕焼けに溶けてしまいそうな華奢な身体つき、長い髪は絹糸みたいで、でも決して絡まらないまま揺 れる、小さな顔の中には大きな目、唇はぷっくりしていて美味しそうな。
「金子さん……」
「あなたには、他にもいるでしょう」
「なんのこと?っていうか顔色悪すぎっ。早く休まないと」
その足元は揺らいでいた。まるで、霧になって消えていきそうで。なのに、金子さんは決して頷かない。
「もしあなたに誰もいなくても、私に、あの人をください。私にはあの人しかいないのです。だから……」
「突然何よっ!?言ってること訳分からない」
「……誰のことを指しているのか理解しているところが大嫌いです。――でも、知りたければ、私についてきてください」