かつて、間宮くんとの時間がこんな穏やかだったことはあるだろうか。
「無理だけは、どうかしないでくれ」
こんな、間宮くんも。
「うん。ありがとう」
相変わらず傷の自己主張は相当だったけど、朝の興奮状態からは脱していたから余分な痛みはない。
「ならいい。早退でもここにいても構わないから、可能なら後で医者へ行くように」
きっと、保健室に入ってきた時から間宮くんに握られていただろう新たな保冷剤は、渡されると半分ぷよぷよでもうすぐ常温。笑ってしまうと、間宮くんの眉はひそめられた。
「ありがとう」
「礼を言う暇があるなら、そのはしたない風貌をどうにかするといい。日紫喜、きみは無神経というか無自覚というか何も考えられない子というか」
「……まあ、おバカはおバカですけどね」
「そんなことも、ないさ」
報復なのか乱れた髪や制服を指摘され、それを慌てて直すわたしを相変わらず見下ろしながら、間宮くんは今度は穏やかに目を閉じた。表情のバリエーションが少ない人だ思ってたけど、こうしてちゃんと接するとそんなことはなかった。