止まってしまえば何を発しようとしていたのかは忘れてしまったけど、小夜に話しかけようてした瞬間、階下から今度は床板が抜けてしまいそうなくらいの乱暴な足音が上がってきた。


「大輔だね」


「うん」


ノックもなしにやあやあと呟きながら部屋のドアを開けるのは、当人にとってはあまり気にすることじゃないらしい。


「おばさんが土産配りとお茶しに行ってくるってさ。あれは、三時間は掛かると見たっ」


左手にはお見舞いらしきミカン、右手には、お母さんから貰った小さなお菓子がふたつ収まっていた。


「ほいっ。小夜の分も預かったぞ。みのり、ミカン食うだろ?」


「……大輔。せめて女子の部屋入るときはノックしてよね」


一番フカフカのクッションに乱雑に座り込み、大輔はお見舞いだったミカンを剥き始める。


「お前らにそんなもんいるかっ。あっ、でも今日のみのりは一段とボロボロでクッチャクチャだな。笑える」


はいはいと流しながら、何故か小夜が自分のマフラーをわたしの首に巻いてくれる。


「病人には優しくよ」


そうして、そっと小夜がわたしに耳打ちを。


「――首の噛み跡、目立つから」


「っ!!」


疑問だったマフラーの意味を即座に理解した。