追いかけることを、躊躇った。
鞄を置き去りのまま、百瀬は、今度はゆっくりと歩を進めながら図書室の扉に手を必要以上に重くかけて出ていった。その行為の意味は……。
……
「また泣くの?」
「……泣かないわよ。間宮くんの前でなんて、二度と泣かない」
このままじゃいけないことは充分感じて、わたしは百瀬の荷物と自分の分を抱えた。
「百瀬がさ、あんなにボクに対して怒るのは、図星ばかりだからだよ、日紫喜」
「間宮くんが嫌味込めるから」
違う。わたしが悪いから。
「百瀬はさ、ただただ抱きしめたかっただけなんだ。そこに、気付かせるなんて意味はどれくらいあったんだろうね。――日紫喜、百瀬を天使のように思わないほうかいい」
そんなこと。
「そんなこと、思ったことないわ」
だって、百瀬は男の子だ。
五分としないうちに戻ってきた百瀬と出入り口で鉢合わせしてしまった。
その表情はいつもと変わらないようにも感じ、ぎこちなくも。
ありがとう、そう小さな声で。みーちゃん帰ろう、まるで了解を得るみたいに。
とても久しぶりに、百瀬はわたしの手をとり歩き出した。