一歩、一歩と間宮くんがわたしのほうへ近づいてくるから、わたしもそれに合わせて後退する。


「正直、ボクは臆病なものだから、百瀬と付き合っているのなら言うつもりはなかったんだ」


「だからっ、百瀬は……」


「ああ。彼氏ではないんだろう? だから清水の舞台から飛び降りてみたのだけれど」


「その態度がどう怯えてるのよっ!!」


「怯えては、いないさ」


「だったら何っ?」


「恋とは一瞬で落ちるものなんだろう? なら百瀬は違うんじゃないのかい? 君達の間に、いったいどれほどの時間があった?」


その名前を出されて心が痛む。怒らせて、謝らせてしまって以来、いつもと変わらないでいてくれる百瀬。


「一瞬とか、あれはドラマからの引用で……それに、百瀬のことは、間宮くんには関係ない……」


「あるさ。ライバルだからね。百瀬に、分からないから、抱きしめられているのかい?」


「……」


じりじりと詰められる間合い。どうしてわたしは、こんなに追い詰められることになったんだろう。真面目に仕事をしてただけなのに。


少しだけ、いつもより大きめな呼吸を、間宮くんはした。


「ボクも日紫喜を抱きしめたら、分かるのかな?」