☆
なにあれなにあれなにあれ。
確かに、軽い奴だとは思ってたけど。あんなに簡単にホテルに誘うもの? というか、私って、そんなに軽い女に見られてたの?
ベッドに突っ伏して身もだえていた私は、ぎゅ、と顔を枕に押し付けた。
そうか。
上坂が私とつきあおうっていったのは、身体目当てだったのか。
何も、私みたいな貧弱な体狙わなくても、上坂ならもっとむちむちのお姉ちゃんがいくらでもついて来るだろうに。
何で、私になんか声かけたんだろう。
「美希ー、飯は………………どした?」
ノックと同時に部屋のドアがあいて、拓兄が顔を出した。私はむくりと起き上ってめがねをかけ直す。
梶原拓巳。現在大学三年生の長兄だ。
「別に。ごはん、食べてきたからいらない」
「あそ。なら、風呂入るか?」
「ん。ちび達は?」
「飯の前に入った。海は莉奈と入ってたな」
「莉奈さん、来てるの?」
「今、下で片付けしてる。お前が食べるなら用意するけど、って」
莉奈さんは拓兄の彼女で、調理専門学校に通っている。去年までは和食を習っていたけど、今は製菓部門に入りなおしたという、妙に料理に気合の入っている人だ。うちに来るたびに食事を作ってくれて、私も一緒に作りながらお料理を教えてもらうことが多い。
勢いよく自分の部屋に入ってきちゃったから、キッチンに莉奈さんがいるの、気付かなかったわ。
「お夕飯はいらないけど、後片付け、私も手伝うわ」
「じゃ、降りて来いよ」
「はーい」
私は勢いよく、ベッドから飛び降りた。
そうだ。莉奈さんに、話してみようかな。
☆
「ねえ、莉奈さん」
「なあに?」
がちゃがちゃと機嫌よくお皿を洗いながら、莉奈さんが答えた。長い髪が、その手のリズムに合わせて細かく揺れている。
キッチンには、私と莉奈さんの二人だけだ。
「セックスって気持ちいい?」
がちゃん!
ひときわ大きな音がして振り向くと、莉奈さんが泡の中に手を突っ込んだ体勢のまま固まっていた。
「……お茶碗、大丈夫?」
「だ、だいじょ……それより美希ちゃん、今の……」
「やってんでしょ? 拓兄と」
莉奈さんは、真っ赤になって目を丸くしている。
あら。
もう拓兄との付き合いも長いから、こういう話題平気かと思ったけど。
「莉奈さん、こういう話題、苦手?」
「苦手っていうか……いきなり何言い出すのかと思って、ちょっと、びっくりして……何か、あったの?」
「うん。彼氏にやろう、って言われたんだけど、どうなんだろうと思って」
「美希ちゃん、彼氏いたんだ」
「最近できたの」
最近も何も、一昨日から一ヶ月間の期間限定彼氏ですけど。
「うーん……こういうことって人それぞれだから一概に言えないけど、つきあってすぐってのも、早くない?」
再び洗い物を始めた莉奈さんは、首をかしげる。
この人は、そんな小さな仕草もかわいいんだ。黙って立っていればすごく美人な人なんだけど、笑顔とか言葉とか、動いている莉奈さんはどっちかっていうとかわいいっていう雰囲気なんだよね。
すらりとした身体。百七十センチ以上ある身長を気にしているけど、それでも常に背筋が伸びた姿勢はとてもきれいだ。
こういう人だったら、どんな格好しても似合うんだろうな。
「やっぱりそうかな。あんまり構えることないって、あいつは言ってたけど」
「……美希ちゃんはどうなの? そういうこと、したいの?」
私は、大きなお鍋の中の豚汁を小さい鍋に移しかえながら答えた。今夜は豚汁だったのか。いいな。
なにあれなにあれなにあれ。
確かに、軽い奴だとは思ってたけど。あんなに簡単にホテルに誘うもの? というか、私って、そんなに軽い女に見られてたの?
ベッドに突っ伏して身もだえていた私は、ぎゅ、と顔を枕に押し付けた。
そうか。
上坂が私とつきあおうっていったのは、身体目当てだったのか。
何も、私みたいな貧弱な体狙わなくても、上坂ならもっとむちむちのお姉ちゃんがいくらでもついて来るだろうに。
何で、私になんか声かけたんだろう。
「美希ー、飯は………………どした?」
ノックと同時に部屋のドアがあいて、拓兄が顔を出した。私はむくりと起き上ってめがねをかけ直す。
梶原拓巳。現在大学三年生の長兄だ。
「別に。ごはん、食べてきたからいらない」
「あそ。なら、風呂入るか?」
「ん。ちび達は?」
「飯の前に入った。海は莉奈と入ってたな」
「莉奈さん、来てるの?」
「今、下で片付けしてる。お前が食べるなら用意するけど、って」
莉奈さんは拓兄の彼女で、調理専門学校に通っている。去年までは和食を習っていたけど、今は製菓部門に入りなおしたという、妙に料理に気合の入っている人だ。うちに来るたびに食事を作ってくれて、私も一緒に作りながらお料理を教えてもらうことが多い。
勢いよく自分の部屋に入ってきちゃったから、キッチンに莉奈さんがいるの、気付かなかったわ。
「お夕飯はいらないけど、後片付け、私も手伝うわ」
「じゃ、降りて来いよ」
「はーい」
私は勢いよく、ベッドから飛び降りた。
そうだ。莉奈さんに、話してみようかな。
☆
「ねえ、莉奈さん」
「なあに?」
がちゃがちゃと機嫌よくお皿を洗いながら、莉奈さんが答えた。長い髪が、その手のリズムに合わせて細かく揺れている。
キッチンには、私と莉奈さんの二人だけだ。
「セックスって気持ちいい?」
がちゃん!
ひときわ大きな音がして振り向くと、莉奈さんが泡の中に手を突っ込んだ体勢のまま固まっていた。
「……お茶碗、大丈夫?」
「だ、だいじょ……それより美希ちゃん、今の……」
「やってんでしょ? 拓兄と」
莉奈さんは、真っ赤になって目を丸くしている。
あら。
もう拓兄との付き合いも長いから、こういう話題平気かと思ったけど。
「莉奈さん、こういう話題、苦手?」
「苦手っていうか……いきなり何言い出すのかと思って、ちょっと、びっくりして……何か、あったの?」
「うん。彼氏にやろう、って言われたんだけど、どうなんだろうと思って」
「美希ちゃん、彼氏いたんだ」
「最近できたの」
最近も何も、一昨日から一ヶ月間の期間限定彼氏ですけど。
「うーん……こういうことって人それぞれだから一概に言えないけど、つきあってすぐってのも、早くない?」
再び洗い物を始めた莉奈さんは、首をかしげる。
この人は、そんな小さな仕草もかわいいんだ。黙って立っていればすごく美人な人なんだけど、笑顔とか言葉とか、動いている莉奈さんはどっちかっていうとかわいいっていう雰囲気なんだよね。
すらりとした身体。百七十センチ以上ある身長を気にしているけど、それでも常に背筋が伸びた姿勢はとてもきれいだ。
こういう人だったら、どんな格好しても似合うんだろうな。
「やっぱりそうかな。あんまり構えることないって、あいつは言ってたけど」
「……美希ちゃんはどうなの? そういうこと、したいの?」
私は、大きなお鍋の中の豚汁を小さい鍋に移しかえながら答えた。今夜は豚汁だったのか。いいな。