「ありがとー、修一」
「そのかわり、皿洗いしてくこと」
ふいに後ろからはりのある声が割り込んだ。振り向くと、家庭科の留美先生が立っている。
「一応授業は終わっているから、大目に見てあげるわ。しっかり食べて、しっかり働け」
「げっ?! マジっすか?」
「じゃなきゃ、さっさと出てけ。働かざる者食うべからず」
「わかりましたー」
しぶしぶ頷くと、上坂は椅子を持ってきてちゃっかりと私の隣に座ってしまった。
「ちょっと、上坂……」
「蓮ー! こっち来なよ。蓮の好きなミートソースだよー!」
騒ぎに気づいた青石さんが、上坂を呼ぶ。
「こっちで肉じゃが食べるからいいー。美希の料理、うまいんだよ!」
そのやり取りを聞いていた人々が、一斉に凍り付いた。言われた私が、多分一番顔がひきつっていただろうけど。
おそるおそる顔をむけると、同じようにひきつった顔の青石さんがいた。
うわあ、最悪……
目の前の机につっぷして、私は重い溜息をついた。
「あ、この肉じゃが、うま! やっぱ美希の料理ってうまいな」
「それ、味付けしたの、俺だけど」
「……ぐっさんの愛がこもってて、美味いです」
「やろーに愛を込める趣味はねえ」
けらけらと山口が笑う。
っていうか……長谷部君も山口も、コレと友達なの?
上坂は、友達が多いほうだと思う。とにかく人懐っこい性格してるし、人の輪の中で話すのがとてもうまい。自分でポジティブだって言ってたけど、ホントその通りの性格で、上坂がいるところには常に明るい雰囲気がある。
もちろん顔もいいから女子にはもてるし、だからと言って女子相手だけにいいかっこしない。男子相手にも本気で相手をするから、男子も上坂を嫌わない。
こんな奴に使うのはまちがっているんだろうけど、一瞬だけ、人徳という言葉が頭に浮かんでしまった。
ないないないない。調子がいいだけよ。
そうして上坂は、他の班も巻き込んで陽気に食事を続けた。クラスの雰囲気が、一気に明るくなった気がする。
何気なく視線を動かしていたら、睨むようにこちらを見ていた青石さんと目が合ってしまった。あわてて視線を外すけど、やっぱり気まずい。
「気にすることないよ」
早々と食べ終わった冴子が、隣からこそっと声をかけてくる。私は、隣の班で人参のグラッセをもらっている上坂を見ながら答えた。
「そうだけどさ……だいたい、あれはもう青石さんの彼氏じゃないんだから、私が彼女に恨まれる筋でもないよね」
「理屈で言えば、ね。そう割り切れないのが恋心ってもんでしょ」
私は、お汁を飲む手を止めて冴子を見た。その視線に、冴子がわずかに小首をかしげる。
「何?」
「いや……あんたって、そんな風に考えてたんだ、と思って、ちょっとびっくりした」
「見直した?」
「今度ゆっくり経験談なんか聞かせてもらっていい?」
「もちろん、美希の話も聞けるんでしょうね」
う。
「なんか面白い話でも考えておくわ」
「ノンフィクションでお願い」
「ノン……」
上坂をのぞけば、実は彼氏なんていたことがない。勉強ならともかく、恋愛の偏差値は、おそらくこのクラスじゃ最低レベルだろうなあ、私。
そんな話をしているうちに、班のみんなが食べ終わってみんなでごちそうさまをする。洗いものは、留美先生のお達しにより上坂の担当だ。
慣れない手つきで洗い物をしている上坂の後ろを、片付けの終わったらしい青石さんが通りかかった。
「そのかわり、皿洗いしてくこと」
ふいに後ろからはりのある声が割り込んだ。振り向くと、家庭科の留美先生が立っている。
「一応授業は終わっているから、大目に見てあげるわ。しっかり食べて、しっかり働け」
「げっ?! マジっすか?」
「じゃなきゃ、さっさと出てけ。働かざる者食うべからず」
「わかりましたー」
しぶしぶ頷くと、上坂は椅子を持ってきてちゃっかりと私の隣に座ってしまった。
「ちょっと、上坂……」
「蓮ー! こっち来なよ。蓮の好きなミートソースだよー!」
騒ぎに気づいた青石さんが、上坂を呼ぶ。
「こっちで肉じゃが食べるからいいー。美希の料理、うまいんだよ!」
そのやり取りを聞いていた人々が、一斉に凍り付いた。言われた私が、多分一番顔がひきつっていただろうけど。
おそるおそる顔をむけると、同じようにひきつった顔の青石さんがいた。
うわあ、最悪……
目の前の机につっぷして、私は重い溜息をついた。
「あ、この肉じゃが、うま! やっぱ美希の料理ってうまいな」
「それ、味付けしたの、俺だけど」
「……ぐっさんの愛がこもってて、美味いです」
「やろーに愛を込める趣味はねえ」
けらけらと山口が笑う。
っていうか……長谷部君も山口も、コレと友達なの?
上坂は、友達が多いほうだと思う。とにかく人懐っこい性格してるし、人の輪の中で話すのがとてもうまい。自分でポジティブだって言ってたけど、ホントその通りの性格で、上坂がいるところには常に明るい雰囲気がある。
もちろん顔もいいから女子にはもてるし、だからと言って女子相手だけにいいかっこしない。男子相手にも本気で相手をするから、男子も上坂を嫌わない。
こんな奴に使うのはまちがっているんだろうけど、一瞬だけ、人徳という言葉が頭に浮かんでしまった。
ないないないない。調子がいいだけよ。
そうして上坂は、他の班も巻き込んで陽気に食事を続けた。クラスの雰囲気が、一気に明るくなった気がする。
何気なく視線を動かしていたら、睨むようにこちらを見ていた青石さんと目が合ってしまった。あわてて視線を外すけど、やっぱり気まずい。
「気にすることないよ」
早々と食べ終わった冴子が、隣からこそっと声をかけてくる。私は、隣の班で人参のグラッセをもらっている上坂を見ながら答えた。
「そうだけどさ……だいたい、あれはもう青石さんの彼氏じゃないんだから、私が彼女に恨まれる筋でもないよね」
「理屈で言えば、ね。そう割り切れないのが恋心ってもんでしょ」
私は、お汁を飲む手を止めて冴子を見た。その視線に、冴子がわずかに小首をかしげる。
「何?」
「いや……あんたって、そんな風に考えてたんだ、と思って、ちょっとびっくりした」
「見直した?」
「今度ゆっくり経験談なんか聞かせてもらっていい?」
「もちろん、美希の話も聞けるんでしょうね」
う。
「なんか面白い話でも考えておくわ」
「ノンフィクションでお願い」
「ノン……」
上坂をのぞけば、実は彼氏なんていたことがない。勉強ならともかく、恋愛の偏差値は、おそらくこのクラスじゃ最低レベルだろうなあ、私。
そんな話をしているうちに、班のみんなが食べ終わってみんなでごちそうさまをする。洗いものは、留美先生のお達しにより上坂の担当だ。
慣れない手つきで洗い物をしている上坂の後ろを、片付けの終わったらしい青石さんが通りかかった。