ホテルのロビーではスタッフや宿泊客が騒がしく慌てふためいていた。めちゃくちゃになったプロムパーティと気絶した人々の手当てに尋常じゃない切羽詰った緊迫が漂っていた。
それを引き起こした中心人物たちはそんなことは全く重要じゃないと、自分達の問題に頭を抱える。
ベアトリスを救うにはゴードンから場所を聞き出さなければならない。
誰もが気を失ってだらりと首をうなだれているゴードンを各々の思いの中で見つめていた。
パトリックの持つデバイスから煙のような光が出ると、それをゴードンの鼻へ向けた。
ゴードンはその煙を鼻から吸うと、目をぱっと開いた。
「あれ? ここどこ。あっ、リチャード。殺さないで、殺さないで」
頭を庇うように手を掲げて、ゴードンは怯えていた。
「ゴードン、コールはどこだ。正直に言えば、許してやる」
「おいら、おいら……」
ゴードンは状況を把握できず、コールのことも裏切れず、ただ震え上がっていた。
ヴィンセントは苛つきゴードンの胸倉を掴み、恐ろしい形相で睨んだ。
「よせ、そんなことをしても無駄だ。これ以上脅かすな」
ヴィンセントはリチャードに施されるが、苛立ちまで押さえられずに力強く手を離した。
リチャードは根気よく続ける
「ゴードンよく聞くんだ。コールはお前に影を仕掛けていた。そんな奴を庇うのか。そして目的を達成するためにザックを殺したんじゃないのか」
「あっ、ザック、ザック!」
ゴードンは思い出し、子供のように泣きじゃくった。
「落ち着くんだ。ゆっくりと何があったか話すんだ」
「オイラはコールと一緒にライフクリスタルを手に入れて賢くなって皆を見返してやるんだって」
「そっか、それで」
「でも、リチャードが邪魔で難しかった。そこでザックを使ってコールは高校生に成りすまし、ヴィンセントから情報を得ようとしたんだ。そしたらザックを口封じに殺してしまった。おいらそれから何をしたか覚えてない」
「その間コールの本当の体はどこにあったんだ?」
ゴードンは答えに詰まり躊躇している。判断に困りながらそれ以上喋らなくなった。
「親父、そんな生ぬるいことしてたらいつまで経ってもコイツは本当のことを言わない。こんな馬鹿に優しくする必要なんてないんだ」
ヴィンセントは一刻も無駄にできない状況に怒り、イライラを吐き出した。
「あっ、オイラのこと馬鹿だって言った。お前、嫌いだ。オイラもう何も言わない。殺すんなら殺せ」
ゴードンは自分の嫌いなキーワードに開き直り、拗ねて床に胡坐をかいて腕を組んで座り込み、口を頑なに閉じてしまった。
「おい、ヴィンセント、事を荒立てるな、余計に酷くなっちまったじゃないか。どうすんだよ。このままじゃベアトリスは……」
パトリックは絶望感で体を振るわせた。歯をぎゅっと食いしばり、高ぶる感情を拳に詰めてぐっと握りつぶす。
「ベアトリスは今、シールドが解除されているのよね。それならまだ救える方法がある。彼女次第だけどパトリックかヴィンセントどちらかがベアトリスの元へいけるかもしれない」
アメリアが二人に小さく呟いた。
パトリックがはっとして目を見張った。そしてヴィンセントを咄嗟にきつく睨む。
「なんだよ、急に睨みやがって。どういう意味だ」
「お前は知らないみたいだな。それならそれでいい。俺が消えたときは恨むなよ」
「消える?」
ヴィンセントは一度経験があるのにその意味について何も知らなかった。
リチャードも状況を把握して、何も言わず背広のポケットから携帯電話を取り出し、ヴィンセントに手渡した。アメリアも自分のをパトリックに渡す。
「なんだよ、急に携帯電話なんか」
「ベアトリスの場所がわかったら、連絡をするに決まってるだろうが。お前は持ってるだけでいい。僕が電話する」
話が見えないとヴィンセントは不思議がっていた。パトリックはその顔を見ると説明する気にもなれなかった。
心の底ではヴィンセントが消えることを恐れている。それがベアトリスの本心を表すことをパトリックはわかっていた。
コールは首を左右にふり、大きく伸びをして、ベッドからゆっくりと立ち上がった。
蝋燭の火の明かりの中に照らされる見知らぬ男。黒い塊に見え、目だけがギラリと光りベアトリスを捉えている。
さらに床に転がっていたポールの体を邪魔だと容赦なく蹴飛ばした。
ベアトリスの高鳴る心臓は体から発する危険信号。これほどの恐怖を味わったことがないほどに震え上がった。
無意識に後ずさるが、壁にぶつかるともう逃げ道がないことを思い知らされ戦慄が走った。
「まだ少ししびれるが、やっと動けるようになった。ベアトリス待たしたな」
「あなたは誰?」
「姿が変わるとやはり判らないものか。ヴィンセントもリチャードもすっかり騙されたくらいだもんな。俺はコールさ。さっきまでポールの体に居たけどな。 これが俺の本当の姿だ」
「どういうこと?」
ベアトリスが床に転がってるポールの姿を見たとき、彼はちょうど意識を取り戻し上半身が起き上がった。
辺りを見回し、状況を把握すると慌てて立ち上がり突然悲鳴をあげた。
「折角俺が雰囲気変えて一目置かれるようにしてやったのに、これじゃ元の木阿弥か」
コールが睨みを利かすと、更にポールは怯え上がった。
「コール、いい加減にしてやりなよ。さっきまでその体だったんだから、愛着とかないのかい? 私も全く関係ないっていいきれないからね。あんた結構いい体してたよ」
マーサが薄ら笑いを浮かべてポールに近づき、そっと胸元を指で撫ぜた。
ポールは自分の体を見ては、腹や胸を触り、そして腕を曲げて筋肉が盛り上がることに驚いていた。
「痩せてる…… 一体、僕はどうなったんですか。なぜタキシードを着ているんでしょう」
ポールはキョトンとしてコールを見つめた。
「どうだ、その体気に入ったか。お前は生まれ変わったんだよ。どうでもいいから俺の目の前から消えてくれ。それとも殺されたいか」
「あっ、いえ、出て行きます」
ポールは一目散にドアに向かって、逃げていった。
「これでわかっただろう。俺はアイツに成りすましていただけなんだ」
「何のためにそんなことを?」
ベアトリスは質問した。
「ヴィンセントから情報を得て、ホワイトライトのあんたを探すためだったんだよ」
「私を?」
「そうさ、俺はヴィンセントと同じようにダークライトさ。以前に言っただろう、悪魔だって。その悪魔が欲しがるもの、それがホワイトライトの持つライフク リスタルなのさ」
「私、そんなもの持ってないわ」
「それが、持ってるんだよ」
コールは素早くベアトリスの前に移動し、彼女の心臓を指差した。
「ここにな。お前の命さ」
ベアトリスはやっと自分がなんのために連れてこられたか理解したがもう遅かった。
「嫌っ!」
逃げようとするが、前にコールがふさがっては身動きできない。
「今さら逃げてどうするんだ。悩みを一杯抱えて苦しいんだろう。俺がそれを取り除いてやるっていったじゃないか。あんたは目を瞑っているだけでいいんだ。 安心しな。すぐに楽にしてやるから」
コールの顔が薄明かりの中で不気味に生える。ベアトリスは恐怖で息が止まりそうになるほど怯えた。もう動くことができなかった。
顔を背け、目を強くギュッと瞑る。
──これが逃げてきたことへの結果。そして私はこのまま人生を終える……
「いい子だ。そうだ、そうやっていればすぐに楽になる。何もせずに俺に任せるだけで、お前はこの苦しみから解放される」
──何もしないでこのまま終わる? そんなの嫌!
ベアトリスは突然目を見開いた。コールの迫る手を突然掴んでもてる限りの力で噛んだ。
コールは悲鳴をあげたとき、一瞬の隙をついて突き飛ばし、コールからすり抜けてドアに向かった。
「ベアトリス、やってくれるじゃないか。窮鼠猫を噛むってところか。しかし、俺には通用しないんだよ」
素早い動きは、目にも止まらずにあっという間にベアトリスの目の前に現れた。
コールは不気味な笑いを浮かべて、容赦なく手を振りかざしベアトリスの頬を殴り飛ばした。ベアトリスは跳ね返るように後ろに飛ばされ、床に倒れこむ。
「ちょっとコール、少しは手加減してやんなよ。女の子なんだよ」
マーサは庇う割には面白がって笑っていた。
ベアトリスの頬は赤く腫れ、口の中が切れて血が出ていた。
「なぜ、最後まで苦しもうとするんだ。抵抗しても無駄なことがわからないのか」
コールはベアトリスと同じ目線にしゃがみこみ、彼女の顎を指で持ち上げお説教する。
「ほんとにお前は最後まで苛つかせてくれるよ。そんなに苦しみたかったら、お望みどおりにそうしてやる」
コールはまたベアトリスの頬を叩く。ベアトリスはそれでも立ち向かおうとコールを睨みつけた。心の中は悔しさと怒りで爆発寸前だった。最後まで諦めるものかと必死に歯を食いしばった。
「まだ抵抗するのか。逃げてばかりのお前が最後に立ち向かうとは皮肉なもんだな。しかし無駄だけどな」
コールの手が再び振りあがったときだった。突然ベアトリスから光が放たれた。その光に目をやられて、コールは一瞬怯んだ。
ベアトリスは尽かさずドアに走りより、部屋を飛び出した。
「くそっ、あいつ、ホワイトライトの力を使いやがった」
暫くコールの目が見えなくなった。ベアトリスはその間に部屋を飛び出し、出口求めて必死に玄関のドアめがけて走った。
しかしドアを開けたときだった、目の前にコールが立っている。ベアトリスが驚く暇もないまま、突然首を掴まれそのまま強く押さえられた。徐々に後ろに追いやられて最後に力強く床に倒された。
「言っただろ。無駄なんだよ。俺はダークライトだ。悪魔なんだ。俺から逃げられるわけがないんだ。お前がここまで抵抗するとは思わなかった。その努力は認めてやろう。しかし、お遊びはここまでだ。お前のライフクリスタル頂く」
ベアトリスは今度こそもうダメだと思った。首を押さえられ、息も苦しい。意識が遠のく中、最後だと覚悟したとき、一番会いたい人が頭に浮かんだ。
抵抗していたベアトリスの体から力が抜けると、コールは首を押さえていた手を離す。ベアトリスの胸から何かを吸い取るようにコールが彼女の心臓めがけて 手をかざし、恍惚とした取り憑かれた眼差しでその瞬間を待つ。柔らかい光りがベアトリスの胸から放たれると、それはコールの掲げている手に引き寄せられ た。そしてコールの手の中で形を形成していくように徐々に膨らんでいった。
コールは上機嫌で声を高らかに上げて笑っていた。
「やめろ!」
声と同時にコールは後ろから何者かに掴まれ思いっきり投げ飛ばされた。そのせいで吸い取られていた光はまたベアトリスの胸へと戻っていった。
「あと一歩のところで完全なライフクリスタルとなり奪い取れるところだったものを誰だ邪魔するのは」
頭を上げたとき、目の前にいた人物にコールは驚いた。
それを引き起こした中心人物たちはそんなことは全く重要じゃないと、自分達の問題に頭を抱える。
ベアトリスを救うにはゴードンから場所を聞き出さなければならない。
誰もが気を失ってだらりと首をうなだれているゴードンを各々の思いの中で見つめていた。
パトリックの持つデバイスから煙のような光が出ると、それをゴードンの鼻へ向けた。
ゴードンはその煙を鼻から吸うと、目をぱっと開いた。
「あれ? ここどこ。あっ、リチャード。殺さないで、殺さないで」
頭を庇うように手を掲げて、ゴードンは怯えていた。
「ゴードン、コールはどこだ。正直に言えば、許してやる」
「おいら、おいら……」
ゴードンは状況を把握できず、コールのことも裏切れず、ただ震え上がっていた。
ヴィンセントは苛つきゴードンの胸倉を掴み、恐ろしい形相で睨んだ。
「よせ、そんなことをしても無駄だ。これ以上脅かすな」
ヴィンセントはリチャードに施されるが、苛立ちまで押さえられずに力強く手を離した。
リチャードは根気よく続ける
「ゴードンよく聞くんだ。コールはお前に影を仕掛けていた。そんな奴を庇うのか。そして目的を達成するためにザックを殺したんじゃないのか」
「あっ、ザック、ザック!」
ゴードンは思い出し、子供のように泣きじゃくった。
「落ち着くんだ。ゆっくりと何があったか話すんだ」
「オイラはコールと一緒にライフクリスタルを手に入れて賢くなって皆を見返してやるんだって」
「そっか、それで」
「でも、リチャードが邪魔で難しかった。そこでザックを使ってコールは高校生に成りすまし、ヴィンセントから情報を得ようとしたんだ。そしたらザックを口封じに殺してしまった。おいらそれから何をしたか覚えてない」
「その間コールの本当の体はどこにあったんだ?」
ゴードンは答えに詰まり躊躇している。判断に困りながらそれ以上喋らなくなった。
「親父、そんな生ぬるいことしてたらいつまで経ってもコイツは本当のことを言わない。こんな馬鹿に優しくする必要なんてないんだ」
ヴィンセントは一刻も無駄にできない状況に怒り、イライラを吐き出した。
「あっ、オイラのこと馬鹿だって言った。お前、嫌いだ。オイラもう何も言わない。殺すんなら殺せ」
ゴードンは自分の嫌いなキーワードに開き直り、拗ねて床に胡坐をかいて腕を組んで座り込み、口を頑なに閉じてしまった。
「おい、ヴィンセント、事を荒立てるな、余計に酷くなっちまったじゃないか。どうすんだよ。このままじゃベアトリスは……」
パトリックは絶望感で体を振るわせた。歯をぎゅっと食いしばり、高ぶる感情を拳に詰めてぐっと握りつぶす。
「ベアトリスは今、シールドが解除されているのよね。それならまだ救える方法がある。彼女次第だけどパトリックかヴィンセントどちらかがベアトリスの元へいけるかもしれない」
アメリアが二人に小さく呟いた。
パトリックがはっとして目を見張った。そしてヴィンセントを咄嗟にきつく睨む。
「なんだよ、急に睨みやがって。どういう意味だ」
「お前は知らないみたいだな。それならそれでいい。俺が消えたときは恨むなよ」
「消える?」
ヴィンセントは一度経験があるのにその意味について何も知らなかった。
リチャードも状況を把握して、何も言わず背広のポケットから携帯電話を取り出し、ヴィンセントに手渡した。アメリアも自分のをパトリックに渡す。
「なんだよ、急に携帯電話なんか」
「ベアトリスの場所がわかったら、連絡をするに決まってるだろうが。お前は持ってるだけでいい。僕が電話する」
話が見えないとヴィンセントは不思議がっていた。パトリックはその顔を見ると説明する気にもなれなかった。
心の底ではヴィンセントが消えることを恐れている。それがベアトリスの本心を表すことをパトリックはわかっていた。
コールは首を左右にふり、大きく伸びをして、ベッドからゆっくりと立ち上がった。
蝋燭の火の明かりの中に照らされる見知らぬ男。黒い塊に見え、目だけがギラリと光りベアトリスを捉えている。
さらに床に転がっていたポールの体を邪魔だと容赦なく蹴飛ばした。
ベアトリスの高鳴る心臓は体から発する危険信号。これほどの恐怖を味わったことがないほどに震え上がった。
無意識に後ずさるが、壁にぶつかるともう逃げ道がないことを思い知らされ戦慄が走った。
「まだ少ししびれるが、やっと動けるようになった。ベアトリス待たしたな」
「あなたは誰?」
「姿が変わるとやはり判らないものか。ヴィンセントもリチャードもすっかり騙されたくらいだもんな。俺はコールさ。さっきまでポールの体に居たけどな。 これが俺の本当の姿だ」
「どういうこと?」
ベアトリスが床に転がってるポールの姿を見たとき、彼はちょうど意識を取り戻し上半身が起き上がった。
辺りを見回し、状況を把握すると慌てて立ち上がり突然悲鳴をあげた。
「折角俺が雰囲気変えて一目置かれるようにしてやったのに、これじゃ元の木阿弥か」
コールが睨みを利かすと、更にポールは怯え上がった。
「コール、いい加減にしてやりなよ。さっきまでその体だったんだから、愛着とかないのかい? 私も全く関係ないっていいきれないからね。あんた結構いい体してたよ」
マーサが薄ら笑いを浮かべてポールに近づき、そっと胸元を指で撫ぜた。
ポールは自分の体を見ては、腹や胸を触り、そして腕を曲げて筋肉が盛り上がることに驚いていた。
「痩せてる…… 一体、僕はどうなったんですか。なぜタキシードを着ているんでしょう」
ポールはキョトンとしてコールを見つめた。
「どうだ、その体気に入ったか。お前は生まれ変わったんだよ。どうでもいいから俺の目の前から消えてくれ。それとも殺されたいか」
「あっ、いえ、出て行きます」
ポールは一目散にドアに向かって、逃げていった。
「これでわかっただろう。俺はアイツに成りすましていただけなんだ」
「何のためにそんなことを?」
ベアトリスは質問した。
「ヴィンセントから情報を得て、ホワイトライトのあんたを探すためだったんだよ」
「私を?」
「そうさ、俺はヴィンセントと同じようにダークライトさ。以前に言っただろう、悪魔だって。その悪魔が欲しがるもの、それがホワイトライトの持つライフク リスタルなのさ」
「私、そんなもの持ってないわ」
「それが、持ってるんだよ」
コールは素早くベアトリスの前に移動し、彼女の心臓を指差した。
「ここにな。お前の命さ」
ベアトリスはやっと自分がなんのために連れてこられたか理解したがもう遅かった。
「嫌っ!」
逃げようとするが、前にコールがふさがっては身動きできない。
「今さら逃げてどうするんだ。悩みを一杯抱えて苦しいんだろう。俺がそれを取り除いてやるっていったじゃないか。あんたは目を瞑っているだけでいいんだ。 安心しな。すぐに楽にしてやるから」
コールの顔が薄明かりの中で不気味に生える。ベアトリスは恐怖で息が止まりそうになるほど怯えた。もう動くことができなかった。
顔を背け、目を強くギュッと瞑る。
──これが逃げてきたことへの結果。そして私はこのまま人生を終える……
「いい子だ。そうだ、そうやっていればすぐに楽になる。何もせずに俺に任せるだけで、お前はこの苦しみから解放される」
──何もしないでこのまま終わる? そんなの嫌!
ベアトリスは突然目を見開いた。コールの迫る手を突然掴んでもてる限りの力で噛んだ。
コールは悲鳴をあげたとき、一瞬の隙をついて突き飛ばし、コールからすり抜けてドアに向かった。
「ベアトリス、やってくれるじゃないか。窮鼠猫を噛むってところか。しかし、俺には通用しないんだよ」
素早い動きは、目にも止まらずにあっという間にベアトリスの目の前に現れた。
コールは不気味な笑いを浮かべて、容赦なく手を振りかざしベアトリスの頬を殴り飛ばした。ベアトリスは跳ね返るように後ろに飛ばされ、床に倒れこむ。
「ちょっとコール、少しは手加減してやんなよ。女の子なんだよ」
マーサは庇う割には面白がって笑っていた。
ベアトリスの頬は赤く腫れ、口の中が切れて血が出ていた。
「なぜ、最後まで苦しもうとするんだ。抵抗しても無駄なことがわからないのか」
コールはベアトリスと同じ目線にしゃがみこみ、彼女の顎を指で持ち上げお説教する。
「ほんとにお前は最後まで苛つかせてくれるよ。そんなに苦しみたかったら、お望みどおりにそうしてやる」
コールはまたベアトリスの頬を叩く。ベアトリスはそれでも立ち向かおうとコールを睨みつけた。心の中は悔しさと怒りで爆発寸前だった。最後まで諦めるものかと必死に歯を食いしばった。
「まだ抵抗するのか。逃げてばかりのお前が最後に立ち向かうとは皮肉なもんだな。しかし無駄だけどな」
コールの手が再び振りあがったときだった。突然ベアトリスから光が放たれた。その光に目をやられて、コールは一瞬怯んだ。
ベアトリスは尽かさずドアに走りより、部屋を飛び出した。
「くそっ、あいつ、ホワイトライトの力を使いやがった」
暫くコールの目が見えなくなった。ベアトリスはその間に部屋を飛び出し、出口求めて必死に玄関のドアめがけて走った。
しかしドアを開けたときだった、目の前にコールが立っている。ベアトリスが驚く暇もないまま、突然首を掴まれそのまま強く押さえられた。徐々に後ろに追いやられて最後に力強く床に倒された。
「言っただろ。無駄なんだよ。俺はダークライトだ。悪魔なんだ。俺から逃げられるわけがないんだ。お前がここまで抵抗するとは思わなかった。その努力は認めてやろう。しかし、お遊びはここまでだ。お前のライフクリスタル頂く」
ベアトリスは今度こそもうダメだと思った。首を押さえられ、息も苦しい。意識が遠のく中、最後だと覚悟したとき、一番会いたい人が頭に浮かんだ。
抵抗していたベアトリスの体から力が抜けると、コールは首を押さえていた手を離す。ベアトリスの胸から何かを吸い取るようにコールが彼女の心臓めがけて 手をかざし、恍惚とした取り憑かれた眼差しでその瞬間を待つ。柔らかい光りがベアトリスの胸から放たれると、それはコールの掲げている手に引き寄せられ た。そしてコールの手の中で形を形成していくように徐々に膨らんでいった。
コールは上機嫌で声を高らかに上げて笑っていた。
「やめろ!」
声と同時にコールは後ろから何者かに掴まれ思いっきり投げ飛ばされた。そのせいで吸い取られていた光はまたベアトリスの胸へと戻っていった。
「あと一歩のところで完全なライフクリスタルとなり奪い取れるところだったものを誰だ邪魔するのは」
頭を上げたとき、目の前にいた人物にコールは驚いた。