ゴードンはポールを連れて、数回瞬間移動を繰り返していた。
何も知らないポールは、震えあがり恐怖に慄いていた。
やっと目的地についたとき、いたたまれない恐ろしさからいきなり悲鳴を上げた。
「うるさいな」
ゴードンは耳に手をあて、ギロリとポールを睨んだ。
ポールは脳天を貫く恐ろしさにへたり込んで、腰が抜けた状態になっていた。
ベッドで寝ていたコールも何事かと目を覚まし、床で座り込みわなわなと震えているポールに視線を向けると、ぎょっとした。
「ゴードン、まさかとは思うが、そいつがヴィンセントの友達じゃないだろうな」
「うん、そうだよ。ちゃんとそう聞いたから連れてきた」
「ち、違う、僕ヴィンセントの友達じゃありません」
ポールが半泣きになりながら、必死で主張する。
「えっ? だって、そう聞いたんだけど」
ゴードンは首を傾げた。
その側でポールはパニックに陥り心臓を押さえて激しく呼吸をしていた。
「よりにもよって、こんなオタクのデブをつれてくるなんて、これに俺が成りすますのか? もう少しましなのはいなかったのか」
コールが、嫌悪感を抱いた顔でポールを見つめると、ポールは益々萎縮して震え上がった。ふくよかな脂肪がカチコチに凍りついているようだった。
「でも連れてきちゃったし、今更とりかえられない。これでもなんとかなると思うんだけど。あっ、ザックの車が来た。ちょっと迎えに行ってくるね」
窓の外を見てたゴードンは姿を消した。
コールはベッドから体を起こし、ポールに質問した。
「お前、名前は? ヴィンセントのことは知ってるのか?」
「僕はポールです。ヴィンセントとはたまに同じ科目を取ってますが、全く口を聞いたことありません」
身の安全のために反抗せずに丁寧に答えていたが、体は震えきっていた。
そこへまた二人降って沸いて出たので、ポールばまた悲鳴をあげた。
「ザックを連れてきたよ」
「あんたが、ノンライトの意識を支配したいダークライトか」
ザックが眼鏡を動かしコールにフォーカスすると少し驚きの顔を見せた。
「ほほう、じいさんも俺の噂をちっとは聞いたことがありそうだ」
「お前は、暴れん坊のコールじゃのう。戻ってきてたとは驚きじゃ。道理で急にリチャードが他のダークライトに接触をしてきたわけじゃ。まあわしは老いぼれで力がないので無視されたが、なるほどこういうことだったのか」
「じいさん、あんたはリチャードの味方をするのか」
「わしは、中立じゃ。もう年じゃしのう。どっちが勝っても負けても関係ないわい。それにわしの能力はなんの力も持っておらん。あんたの意識をノンライトに移したところで、なんの罪もないじゃろう。年寄りの気まぐれで許される範囲じゃ」
「そうだな。そしたら早速やってもらえるか」
コールはキッとポールを睨みつけた。情報を集めるだけだと、デブでも我慢することにした。
ポールは何が起こるか全くわからず、頭を抱え戦慄して発狂していた。
「少し静かにしてくれないか。益々、お前に成りすます俺が惨めになるだろうが」
「それじゃ始めるか。えーっと、そこのおデブちゃん、ちょっとこっちへ」
ザックが手招きすると、極限の恐怖に達してポールは気絶してしまった。
「うわぁ、なんて気の弱い奴。オイラより弱っちぃ」
ゴードンの言葉で、コールはがっくりとうなだれた。
ザックはゴードンに気絶したポールを運ぶように支持すると、ゴードンは引きずってベッドの近くまで持ってきた。
コールの頭にザックが手を置き呪文のような言葉を唱えると、コールはベッドに腰掛けたまま意識を失い首をうなだれた。ザックがコールの頭から黒い影を 引っ張り出す。それを床に転がっているポールの頭にくっ付けると、その影はすっとしみこむように浸透していった。
床に寝転がっていたポールが突然むくっと起きた。瞳には黒い影が渦を巻くように浮遊し、次第に馴染んで最後には溶け込んだ。
「コール、大丈夫?」
ゴードンが心配していた。
「さてと、高校生活と行きますか。それにしても体が重い。立つのも一苦労だ。なんとかならんのか、この体」
ポールに成りすましたコールは立ち上がり、まじまじと体をみていた。身長はそんなに悪くないが、体に無駄に脂肪がつきすぎて、腹がでっぱり、かがむのも 一苦労だった。
「見かけはその子のままじゃが、中身は今はコールじゃ。力も普段通りとは行かぬが、その子の潜在能力の極限まで発揮できるじゃろう。但し無理はするな。無理をすれば、その子の身がもたん。それから意識を支配してることになるので、その子の記憶も読み取れるじゃろう」
「ああ。まだ慣れてないために、動きづらいがなんとか機能するだろう。体も短期間で痩せてやるよ」
「あっ、そうそう、肝心なことを忘れてた。鏡に気をつけるんじゃ。鏡に映れば、本来の姿が映りこむ」
ゴードンは試しに手鏡を持ち出してコールに渡してやった。鏡には普段の自分の顔が映っているのを確認した。
「それからもう一つ、戻るときじゃが、左の腕を見てくれ。そこに黒い輪のようなものあるだろう。それに触れてみろ」
「なんか輪ゴムを手首につけてるようだ」
コールは引っ張って遊んでいた。
「それはお前の意識の一部じゃ。それを外して元の体につける。するとその子の体から意識が引っ張られて、自分の体へと戻っていく。好きなときにいつでも外せ」
「わかった。じいさん、ありがとな」
「そんじゃ、わしはこれで帰るとしよう」
ザックはドアに向かって歩いていたときだった、コールは後ろから飛び掛り、ザックの首に腕を引っ掛けねじった。
グキッと骨が折れる音が聞こえると、ザックはうなだれた。
「コール! なんてことをしたんだよ。ザックを殺しちゃったのか」
「ああ、悪く思わんでくれ。ノンライトでもどれくらいの力が発揮できるか練習さ。こんな体でもなんとかなりそうだ」
「ああ、ああ、ザック! コール、酷い。ザックは手助けしてくれたのに、こんなことするなんて」
「おい、ゴードン、勘違いするな。コイツは自分に都合が悪くなればリチャードにつくタイプだ。俺がノンライトに成りすましてることがばれてみろ、計画が台無しだ。それに俺のことを嫌う他のダークライトにも知られたら、意識のない俺はあっさりと襲われてしまう。全ては計画のためだ。我慢しろ」
「でも、でも、ザックはとってもいい奴で、オイラ大好きだったんだ!」
ゴードンは泣きじゃくっていた。
「ゴードン、いい加減にしろ」
その時、ゴードンの背中から影が姿を現す。コールは首を縦にふると、たちまちゴードンの目が赤褐色になり、無表情になった。
「さあ、ゴードン、こいつをどっかに始末してこい」
ゴードンはザックを抱きかかえると、命令されるままどこかへ消えていった。
「体は違えど、影は俺を判別するみたいだな」
コールは自分の体に近寄り、ベッドに寝かしてやった。
「暫くゆっくり休んでおけよ、コール!」
怯えきっていたポールの体は、中身が違うだけで自信を得て背筋が伸びていた。顔つきも穏やかだったものが悪意を持ったきつい表情に変わった。
ただ体つきだけはぶよぶよとたるみ、コール自身も腹をつまんでしかめっ面をしていた。
次の日、コールはポールに成りすまし、教室の一番後ろの席で授業を受けていた。生徒達を見回し、ポールの記憶を整理して人間関係を確認していた。
──ポールは友達少ねぇんだな。そして好意を寄せてるのが、あのヴィンセントにお熱のお嬢さんか。まああの子はノンライトでも飛び切り美人だからどんな男にもてるな。それにしても、なんでヴィンセントはお熱じゃないんだろう。
コールはヴィンセントの背中を見ていた。
──ヴィンセントがお熱を上げてるベアトリスっていうのは、席が一つ空いてるところか。今日は欠席か……
次に黒板に視線を移す。情報収集とはいえ、高校生に成りすまし、つまらない授業を受けるのは苦痛だった。
コールは大きな欠伸をして、背もたれに反り返ってだらけた態度を取った。
「おい、ポール。なんださっきからキョロキョロしてるし、その態度は! 真面目にせんか」
先生から注意をうけてしまった。
コールはすくっと立ち上がると、針金が背広を着てるようなその教師の風貌をからかう意味と喧嘩を売る決まり文句をひっかけて言った。
「You want a piece of me?」
挑発する言葉を投げかけたが、コールは言葉通りに、体の一部が欲しいかと引っ掛けて、自分の体の脂肪をつまんで先生に向かって投げるフリをすると、教室内は大爆笑となった。
普段大人しく、誰からも相手にされないはずのポールは、この一件であっという間に好印象を植え付けた。
授業が終わると、最高だったとわざわざ言いに来る生徒も現れた。
調子に乗ったコールは、お山の大将のように気取った態度になっていたが、それを気に入らないといちゃもんをつける生徒も警告にやってきた。
それはクラスクラウンと称される、クラスの人気者の目立ちたがり屋のブラッドリーだった。
背はすらりとと高く、自分がかっこいいことを知っているのか悪ぶれた態度を取っている。いつも数人の友達とつるんではリーダー的存在でもあった。
「おい、デブ、普段目立たない癖に、ちょっと一回受けたからっていい気になるなよ」
「You want a piece of me?」
コールは目を光らせて言った。
「まだここでも言うのか、二度目はもう面白くねぇんだよ」
「違うぜ、今のは正真正銘の”《《俺とやる気か》》”って聞いたんだよ」
「聞いたか、みんな。こいつこのブラッドリー様と勝負だって、ああ喜んで勝負してやるよ」
ブラッドリーは自分の方が強いことを充分に分かっていった言葉だったが、いきなりすごいスピードでコールに殴られ、吹っ飛んでしまった。
「一応手加減しておいたけど、本当の俺の実力だったら、お前、命落としてたぞ」
ポールの姿をしてるが中身はコール。本来のダークライトの力は抑えられているが、ノンライトの最大限の力を操れる限り、普通の高校生が敵うはずがなかった。
それでもブラッドリーは後に引けないためにまた立ち上がり、刃向かってパンチするが、あっさりと交わされ今度は腹に蹴りを入れられた。
周りの女生徒たちが悲鳴をあげた。
ヴィンセントは疑問を抱くような目で、ポールの行動をみていた。
コールはいつもの癖で非道になりすぎ、男子生徒の胸倉を掴み持ち上げた。他の生徒達は圧倒されて怖くなり、後ずさる。
「やめるんだ、ポール!」
ヴィンセントは素早く近寄り、ポールに扮したコールの腕を掴んだ。コールははっとして我に返り、さっと手を離した。
ブラッドリーは口の端から血を出し、腹を抱えこんで苦しそうに咳をしていた。そして他の生徒達に運ばれて教室を出て行った。
ヴィンセントは露骨に怪しげな顔つきを見せていた。コールは思わずヒヤリとして、目を逸らす。
──まさかバレたか。
コールが大人しくなったと判断したヴィンセントは、それ以上何も言わず去っていった。
コールは派手にやりすぎたと、暫く無口になって席に着いた。
昼休みなると、コールは三人の男子生徒に取り囲まれ、首を一振りされついて来いと示唆された。
ポールだと思われているコールは、大歓迎と案内されるままついていく。
授業に使用されていない教室に入ると、そこにはブラッドリーを含む10人くらいのまとまった数の男子生徒が待っていた。
それを見るなり、コールは鼻で一笑いした。
「お前らもよっぽど暇な高校生なんだな。ほんとガキ。もっと大人になれよ」
コールは上から目線で、説教臭く言った。
「そんな生意気な口を叩けるのは今だけだ。さっきは油断してたから殴られちまったけど、今からたっぷりお返しさせてもらうぜ」
ブラッドリーが腫れた頬をさすりながら言った。
仲間をつれて仕返そうとするその態度に益々コールは我慢できなくて、腹を抱えて笑い転げてしまった。周りの怒りは最高潮にまで達し、全てのものがコールに激高した。
コールは側に居た三人に両腕と胴回りを押さえられた。そして囲まれるように残りの男子生徒達が取り囲んだ。
それでも動じることもなく凄みを利かせて言っ た。
「お前ら、俺を誰だと思ってる。まあこんな風貌じゃ仕方ないけどな。そこまでいうのなら特別に相手しやる。Make my day!」
勝てる見込みがあるから、かかってこいと挑発するその過去のアクション映画で一躍有名になった台詞を吐き出せば、一層の怒りを買った。
そのうちの一人が拳を上げ走り迫ってきた。
コールは足でそいつの顎を一蹴りした。その力は強く、その男子生徒は後ろにぶっ飛んだ。
コールの左右で両腕を押さえ込んでいた男子生徒は、目の前の攻撃で一瞬の隙をつかれ、力が弱まったところ、コールの腕がすり抜ける。そして素早いスピードで首根っこを押さえられてお互いの頭をぶつけられた。
胴体を捕まえていたものも腕を引き剥がされ、簡単に投げ飛ばされた。
「この野郎!」
残りの全ての生徒達が一斉に飛び掛ってくるが、コールは鼻でフンと笑うと、デブの体ながら機敏な動きで、あっという間に片付けていった。
頭を足で踏み潰し、顔から血を流した男子生徒が悲鳴をあげる。
「おっと、これ以上踏んだら、死んじまうな。本当はそこまでやりたいんだけど、今日は我慢するか。お前らラッキーだぜ。俺に絡んでこの程度ですむんだからな」
ブラッドリーはナイフを手に持ち震えている。
「もうよせ、俺に逆らえば、本当に命なくなるぜ。俺はお前の思っているようなデブのポールじゃないんだよ」
本来のコールの邪悪さが、ポールの顔にも乗り移っていた。
その気迫に負け、ブラッドリーの持っていたナイフが手から零れ落ちると、コールは背を向けて教室から出ていった。殴り合いはできても殺せないのが不満で、不完全燃焼になり機嫌は悪かった。
──早く元の体で、暴れたいぜ。そして殺《や》る!
本来の自分のしたいことができないで、不満げにいたとき、廊下の先で歩いているヴィンセントが目に入った。
何も知らないポールは、震えあがり恐怖に慄いていた。
やっと目的地についたとき、いたたまれない恐ろしさからいきなり悲鳴を上げた。
「うるさいな」
ゴードンは耳に手をあて、ギロリとポールを睨んだ。
ポールは脳天を貫く恐ろしさにへたり込んで、腰が抜けた状態になっていた。
ベッドで寝ていたコールも何事かと目を覚まし、床で座り込みわなわなと震えているポールに視線を向けると、ぎょっとした。
「ゴードン、まさかとは思うが、そいつがヴィンセントの友達じゃないだろうな」
「うん、そうだよ。ちゃんとそう聞いたから連れてきた」
「ち、違う、僕ヴィンセントの友達じゃありません」
ポールが半泣きになりながら、必死で主張する。
「えっ? だって、そう聞いたんだけど」
ゴードンは首を傾げた。
その側でポールはパニックに陥り心臓を押さえて激しく呼吸をしていた。
「よりにもよって、こんなオタクのデブをつれてくるなんて、これに俺が成りすますのか? もう少しましなのはいなかったのか」
コールが、嫌悪感を抱いた顔でポールを見つめると、ポールは益々萎縮して震え上がった。ふくよかな脂肪がカチコチに凍りついているようだった。
「でも連れてきちゃったし、今更とりかえられない。これでもなんとかなると思うんだけど。あっ、ザックの車が来た。ちょっと迎えに行ってくるね」
窓の外を見てたゴードンは姿を消した。
コールはベッドから体を起こし、ポールに質問した。
「お前、名前は? ヴィンセントのことは知ってるのか?」
「僕はポールです。ヴィンセントとはたまに同じ科目を取ってますが、全く口を聞いたことありません」
身の安全のために反抗せずに丁寧に答えていたが、体は震えきっていた。
そこへまた二人降って沸いて出たので、ポールばまた悲鳴をあげた。
「ザックを連れてきたよ」
「あんたが、ノンライトの意識を支配したいダークライトか」
ザックが眼鏡を動かしコールにフォーカスすると少し驚きの顔を見せた。
「ほほう、じいさんも俺の噂をちっとは聞いたことがありそうだ」
「お前は、暴れん坊のコールじゃのう。戻ってきてたとは驚きじゃ。道理で急にリチャードが他のダークライトに接触をしてきたわけじゃ。まあわしは老いぼれで力がないので無視されたが、なるほどこういうことだったのか」
「じいさん、あんたはリチャードの味方をするのか」
「わしは、中立じゃ。もう年じゃしのう。どっちが勝っても負けても関係ないわい。それにわしの能力はなんの力も持っておらん。あんたの意識をノンライトに移したところで、なんの罪もないじゃろう。年寄りの気まぐれで許される範囲じゃ」
「そうだな。そしたら早速やってもらえるか」
コールはキッとポールを睨みつけた。情報を集めるだけだと、デブでも我慢することにした。
ポールは何が起こるか全くわからず、頭を抱え戦慄して発狂していた。
「少し静かにしてくれないか。益々、お前に成りすます俺が惨めになるだろうが」
「それじゃ始めるか。えーっと、そこのおデブちゃん、ちょっとこっちへ」
ザックが手招きすると、極限の恐怖に達してポールは気絶してしまった。
「うわぁ、なんて気の弱い奴。オイラより弱っちぃ」
ゴードンの言葉で、コールはがっくりとうなだれた。
ザックはゴードンに気絶したポールを運ぶように支持すると、ゴードンは引きずってベッドの近くまで持ってきた。
コールの頭にザックが手を置き呪文のような言葉を唱えると、コールはベッドに腰掛けたまま意識を失い首をうなだれた。ザックがコールの頭から黒い影を 引っ張り出す。それを床に転がっているポールの頭にくっ付けると、その影はすっとしみこむように浸透していった。
床に寝転がっていたポールが突然むくっと起きた。瞳には黒い影が渦を巻くように浮遊し、次第に馴染んで最後には溶け込んだ。
「コール、大丈夫?」
ゴードンが心配していた。
「さてと、高校生活と行きますか。それにしても体が重い。立つのも一苦労だ。なんとかならんのか、この体」
ポールに成りすましたコールは立ち上がり、まじまじと体をみていた。身長はそんなに悪くないが、体に無駄に脂肪がつきすぎて、腹がでっぱり、かがむのも 一苦労だった。
「見かけはその子のままじゃが、中身は今はコールじゃ。力も普段通りとは行かぬが、その子の潜在能力の極限まで発揮できるじゃろう。但し無理はするな。無理をすれば、その子の身がもたん。それから意識を支配してることになるので、その子の記憶も読み取れるじゃろう」
「ああ。まだ慣れてないために、動きづらいがなんとか機能するだろう。体も短期間で痩せてやるよ」
「あっ、そうそう、肝心なことを忘れてた。鏡に気をつけるんじゃ。鏡に映れば、本来の姿が映りこむ」
ゴードンは試しに手鏡を持ち出してコールに渡してやった。鏡には普段の自分の顔が映っているのを確認した。
「それからもう一つ、戻るときじゃが、左の腕を見てくれ。そこに黒い輪のようなものあるだろう。それに触れてみろ」
「なんか輪ゴムを手首につけてるようだ」
コールは引っ張って遊んでいた。
「それはお前の意識の一部じゃ。それを外して元の体につける。するとその子の体から意識が引っ張られて、自分の体へと戻っていく。好きなときにいつでも外せ」
「わかった。じいさん、ありがとな」
「そんじゃ、わしはこれで帰るとしよう」
ザックはドアに向かって歩いていたときだった、コールは後ろから飛び掛り、ザックの首に腕を引っ掛けねじった。
グキッと骨が折れる音が聞こえると、ザックはうなだれた。
「コール! なんてことをしたんだよ。ザックを殺しちゃったのか」
「ああ、悪く思わんでくれ。ノンライトでもどれくらいの力が発揮できるか練習さ。こんな体でもなんとかなりそうだ」
「ああ、ああ、ザック! コール、酷い。ザックは手助けしてくれたのに、こんなことするなんて」
「おい、ゴードン、勘違いするな。コイツは自分に都合が悪くなればリチャードにつくタイプだ。俺がノンライトに成りすましてることがばれてみろ、計画が台無しだ。それに俺のことを嫌う他のダークライトにも知られたら、意識のない俺はあっさりと襲われてしまう。全ては計画のためだ。我慢しろ」
「でも、でも、ザックはとってもいい奴で、オイラ大好きだったんだ!」
ゴードンは泣きじゃくっていた。
「ゴードン、いい加減にしろ」
その時、ゴードンの背中から影が姿を現す。コールは首を縦にふると、たちまちゴードンの目が赤褐色になり、無表情になった。
「さあ、ゴードン、こいつをどっかに始末してこい」
ゴードンはザックを抱きかかえると、命令されるままどこかへ消えていった。
「体は違えど、影は俺を判別するみたいだな」
コールは自分の体に近寄り、ベッドに寝かしてやった。
「暫くゆっくり休んでおけよ、コール!」
怯えきっていたポールの体は、中身が違うだけで自信を得て背筋が伸びていた。顔つきも穏やかだったものが悪意を持ったきつい表情に変わった。
ただ体つきだけはぶよぶよとたるみ、コール自身も腹をつまんでしかめっ面をしていた。
次の日、コールはポールに成りすまし、教室の一番後ろの席で授業を受けていた。生徒達を見回し、ポールの記憶を整理して人間関係を確認していた。
──ポールは友達少ねぇんだな。そして好意を寄せてるのが、あのヴィンセントにお熱のお嬢さんか。まああの子はノンライトでも飛び切り美人だからどんな男にもてるな。それにしても、なんでヴィンセントはお熱じゃないんだろう。
コールはヴィンセントの背中を見ていた。
──ヴィンセントがお熱を上げてるベアトリスっていうのは、席が一つ空いてるところか。今日は欠席か……
次に黒板に視線を移す。情報収集とはいえ、高校生に成りすまし、つまらない授業を受けるのは苦痛だった。
コールは大きな欠伸をして、背もたれに反り返ってだらけた態度を取った。
「おい、ポール。なんださっきからキョロキョロしてるし、その態度は! 真面目にせんか」
先生から注意をうけてしまった。
コールはすくっと立ち上がると、針金が背広を着てるようなその教師の風貌をからかう意味と喧嘩を売る決まり文句をひっかけて言った。
「You want a piece of me?」
挑発する言葉を投げかけたが、コールは言葉通りに、体の一部が欲しいかと引っ掛けて、自分の体の脂肪をつまんで先生に向かって投げるフリをすると、教室内は大爆笑となった。
普段大人しく、誰からも相手にされないはずのポールは、この一件であっという間に好印象を植え付けた。
授業が終わると、最高だったとわざわざ言いに来る生徒も現れた。
調子に乗ったコールは、お山の大将のように気取った態度になっていたが、それを気に入らないといちゃもんをつける生徒も警告にやってきた。
それはクラスクラウンと称される、クラスの人気者の目立ちたがり屋のブラッドリーだった。
背はすらりとと高く、自分がかっこいいことを知っているのか悪ぶれた態度を取っている。いつも数人の友達とつるんではリーダー的存在でもあった。
「おい、デブ、普段目立たない癖に、ちょっと一回受けたからっていい気になるなよ」
「You want a piece of me?」
コールは目を光らせて言った。
「まだここでも言うのか、二度目はもう面白くねぇんだよ」
「違うぜ、今のは正真正銘の”《《俺とやる気か》》”って聞いたんだよ」
「聞いたか、みんな。こいつこのブラッドリー様と勝負だって、ああ喜んで勝負してやるよ」
ブラッドリーは自分の方が強いことを充分に分かっていった言葉だったが、いきなりすごいスピードでコールに殴られ、吹っ飛んでしまった。
「一応手加減しておいたけど、本当の俺の実力だったら、お前、命落としてたぞ」
ポールの姿をしてるが中身はコール。本来のダークライトの力は抑えられているが、ノンライトの最大限の力を操れる限り、普通の高校生が敵うはずがなかった。
それでもブラッドリーは後に引けないためにまた立ち上がり、刃向かってパンチするが、あっさりと交わされ今度は腹に蹴りを入れられた。
周りの女生徒たちが悲鳴をあげた。
ヴィンセントは疑問を抱くような目で、ポールの行動をみていた。
コールはいつもの癖で非道になりすぎ、男子生徒の胸倉を掴み持ち上げた。他の生徒達は圧倒されて怖くなり、後ずさる。
「やめるんだ、ポール!」
ヴィンセントは素早く近寄り、ポールに扮したコールの腕を掴んだ。コールははっとして我に返り、さっと手を離した。
ブラッドリーは口の端から血を出し、腹を抱えこんで苦しそうに咳をしていた。そして他の生徒達に運ばれて教室を出て行った。
ヴィンセントは露骨に怪しげな顔つきを見せていた。コールは思わずヒヤリとして、目を逸らす。
──まさかバレたか。
コールが大人しくなったと判断したヴィンセントは、それ以上何も言わず去っていった。
コールは派手にやりすぎたと、暫く無口になって席に着いた。
昼休みなると、コールは三人の男子生徒に取り囲まれ、首を一振りされついて来いと示唆された。
ポールだと思われているコールは、大歓迎と案内されるままついていく。
授業に使用されていない教室に入ると、そこにはブラッドリーを含む10人くらいのまとまった数の男子生徒が待っていた。
それを見るなり、コールは鼻で一笑いした。
「お前らもよっぽど暇な高校生なんだな。ほんとガキ。もっと大人になれよ」
コールは上から目線で、説教臭く言った。
「そんな生意気な口を叩けるのは今だけだ。さっきは油断してたから殴られちまったけど、今からたっぷりお返しさせてもらうぜ」
ブラッドリーが腫れた頬をさすりながら言った。
仲間をつれて仕返そうとするその態度に益々コールは我慢できなくて、腹を抱えて笑い転げてしまった。周りの怒りは最高潮にまで達し、全てのものがコールに激高した。
コールは側に居た三人に両腕と胴回りを押さえられた。そして囲まれるように残りの男子生徒達が取り囲んだ。
それでも動じることもなく凄みを利かせて言っ た。
「お前ら、俺を誰だと思ってる。まあこんな風貌じゃ仕方ないけどな。そこまでいうのなら特別に相手しやる。Make my day!」
勝てる見込みがあるから、かかってこいと挑発するその過去のアクション映画で一躍有名になった台詞を吐き出せば、一層の怒りを買った。
そのうちの一人が拳を上げ走り迫ってきた。
コールは足でそいつの顎を一蹴りした。その力は強く、その男子生徒は後ろにぶっ飛んだ。
コールの左右で両腕を押さえ込んでいた男子生徒は、目の前の攻撃で一瞬の隙をつかれ、力が弱まったところ、コールの腕がすり抜ける。そして素早いスピードで首根っこを押さえられてお互いの頭をぶつけられた。
胴体を捕まえていたものも腕を引き剥がされ、簡単に投げ飛ばされた。
「この野郎!」
残りの全ての生徒達が一斉に飛び掛ってくるが、コールは鼻でフンと笑うと、デブの体ながら機敏な動きで、あっという間に片付けていった。
頭を足で踏み潰し、顔から血を流した男子生徒が悲鳴をあげる。
「おっと、これ以上踏んだら、死んじまうな。本当はそこまでやりたいんだけど、今日は我慢するか。お前らラッキーだぜ。俺に絡んでこの程度ですむんだからな」
ブラッドリーはナイフを手に持ち震えている。
「もうよせ、俺に逆らえば、本当に命なくなるぜ。俺はお前の思っているようなデブのポールじゃないんだよ」
本来のコールの邪悪さが、ポールの顔にも乗り移っていた。
その気迫に負け、ブラッドリーの持っていたナイフが手から零れ落ちると、コールは背を向けて教室から出ていった。殴り合いはできても殺せないのが不満で、不完全燃焼になり機嫌は悪かった。
──早く元の体で、暴れたいぜ。そして殺《や》る!
本来の自分のしたいことができないで、不満げにいたとき、廊下の先で歩いているヴィンセントが目に入った。