「終わり。筆記用具をおいて下さい」
試験官の方が終わりの合図をして、鉛筆を机に置く。正直、分からない問題も幾つもあった。けれど、この5ヶ月間自分なりに頑張ったつもりだったので、試験を終えた私はとても晴れやかな気持ちだった。
その日、私は少し寄り道して帰る事にした。
恵比寿駅で下車すると、駅ビルに直結した商業施設で秋から冬物の洋服などを見て、気に入ったものを2着ほど購入した。秋冬向きの暖色カラーのニットとスカートで、明日の通勤から早速大活躍してくれそう。結果も知らないくせに気が早いけど、今日まで頑張った自分へのご褒美だ。
その後、私は同じ商業施設の地下にあるスーパーマーケットに立ち寄って食材の買い出しをした。最近は会社から帰った後は勉強していて自炊していない。久しぶりに料理をしようと思ったのだ。
帰り道には駅から少し歩いたところにある、最近人気のタピオカミルクティーのお店に行き、看板メニューのタピオカミルクティーを注文した。店の外では購入したばかりのタピオカミルクティーをスマホで撮影している女の子が何人もいる。きっと、SNSに上げるのだろう。印象的なロゴが付いた透明カップに黒く大きい丸が沈むミルクティーは、たしかに写真映えしそうだ。太いストローでクルリと回すと、黒い丸がゆったりとミルクティーの中を浮いては沈んだ。
「ん、おいし」
タピオカミルクティーのタピオカが、すっごくモチモチしてて美味しい。タピオカのサイズがコンビニのそれとは全然違うし、モチモチ具合が尋常じゃない。紅茶もスッキリとして飲みやすい味わいだった。いわゆるダージリンやアッサムティーといった一般的な紅茶というよりは、中国茶のような味わい。流石に人気のお店だけある。私はそれを片手に持ち、のんびりと歩いて家路へと付いた。
家に帰ると、久しぶりにグラタンを作った。秋らしくカボチャとキノコのクリームグラタンだ。ツーンとする目の痛みに耐えながら玉ねぎを薄切りにスライスし、フライパンでしっかりと炒める。玉ねぎを飴色になるまで炒めるのは手間だけど、手間を掛けたからこその美味しさがそこにあるのだ。
ホワイトソースはバターを溶かして小麦粉と牛乳を混ぜて作る本格派だ。案の定、作ったホワイトソースはたくさん余ってしまったけれど、それは今度クリームシチューにでもしようと思う。グラタンに入れるカボチャやキノコも全て旬のものを購入した。
オーブンレンジを開けると表面にのせたチーズの焦げた芳ばしい香りがした。表面には焦げ目がつき、中はトロリと垂れる熱々のそれを私はスプーンで掬い、フーフーと冷まして1口だけ食べた。
「んー。私、天才かも」
我ながら、中々の出来栄えだと思う。カボチャのホクホク具合と、キノコの食感と、ホワイトソースの蕩け具合が絶妙だ。マカロニと刻んだ鶏胸肉も良い具合に絡み合っている。味付けもいい感じ。
上手に出来たから、桜木さんに食べて貰いたいな、なんて思ったり。
あの時みたいに『凄く美味しい!』って言って、笑ってくれるだろうか。そう言ってくれたら、すごく嬉しいなぁ。きっとこのホワイトソースなんて全部なくなっちゃうだろうな。
それを想像して1人ニヤニヤしている私はきっと、端から見られたら完全に怪しい女だっただろう。
美味しく夕ご飯を頂くと、いつの間にか解答速報の授業の時間になっていた。気合いを入れて夕ご飯を作っていたので、すっかりと時間が経つのを忘れていた。
私は慌てて食器を片付けてパソコンを開くと、生中継の解説授業の様子を食い入るように見つめた。