「──他に御不明な点はございますか?」
「大丈夫です」
「では、こちらにご署名をお願いします」
全体説明のあと幾つかの確認を終え、イマディール不動産の小さな接客室に紙を捲る音とカツカツとポールペンを走らせる音が響く。
この作業の次は、売買契約書の作製となる。
この際、手付金として不動産価格の10パーセントと、今回の物件はオーナーさんからの仲介物件だったのでイマディール不動産が仲介手数料として3パーセントを買い主様から頂く。今回は4380万円なので、その13パーセントと言うことで総額は500万円を超す。私は人生で初めて、本物の預金小切手というものを目にした。
全ての作業が終わり、私は水谷様をお見送りするため、オフィスの外に出た。水谷様はクルリと振り返ってこちらを見た。
「住むのが今から楽しみだわ。ありがとう」
「お力になれて、本当によかったです」
私はペコリとお辞儀をした。
顔を上げると、水谷様は晴れ晴れとした表情でこちらを見つめていた。
「私、あなたにお願いしてよかったわ。いつか買い替える時がきたら、また藤堂さんにお願いする」
にこりと微笑んで最後に言われた言葉に、胸がジーンと熱くなった。頑張ってよかったなと、心から思った。
「この度は誠にありがとうございました」
私はもう1度深々とお辞儀をして、水谷様の背筋がピンと伸びた後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
オフィスに戻ると、私は綾乃さんと桜木さんにお礼を言った。あの時、綾乃さんが背中を押してくれなかったら、そして、桜木さんがアドバイスをしてくれなかったら、私は今日も契約件数0件の日数を記録を更新していたことだろう。
「綾乃さん、桜木さん、契約取れました。やりました」
お礼を言いながら、なぜか感極まってきてボロボロと涙が溢れてきた。
「藤堂さーん、泣かないでー! よしよし、頑張った。今日はお姉さんが飲みに連れて行ってあげるから!!」
綾乃さんが私の背中を擦る。やっぱり今日も綾乃さんの中では飲みに行く事が決定したようだ。
「藤堂さん、おめでとう。頑張ったね」
桜木さんが労いの言葉を掛けてくれた。
「そうよ。藤堂さんは頑張ったの。見てよ、この初々しさ。毎月何件も契約取ってきては飄々としてる桜木とは大違い」
「俺にも感動して泣けってのか?」
「いいねぇ、桜木の泣き顔。インスタにあげとく」
「やめろ。泣かねえし」
「じゃあ、桜木が大物になったらそれをネタに揺する。桜木がうら若き後輩女性社員を泣かせた図」
「マジか、そっちなの??」
にやにや顔の綾乃さんと顔を顰める桜木さん。いつものように阿吽の呼吸でやり合うこの2人に、私は思わず吹き出してしまった。
「お2人とも、本当にありがとうございました。これからも頑張ります」
泣き笑いする私を見て、2人はキョトンとした顔をしたあとにこりと笑ってくれた。
藤堂美雪、27歳。社会人6年目にして、これまでの社会人人生で1番嬉しい日だった。
「大丈夫です」
「では、こちらにご署名をお願いします」
全体説明のあと幾つかの確認を終え、イマディール不動産の小さな接客室に紙を捲る音とカツカツとポールペンを走らせる音が響く。
この作業の次は、売買契約書の作製となる。
この際、手付金として不動産価格の10パーセントと、今回の物件はオーナーさんからの仲介物件だったのでイマディール不動産が仲介手数料として3パーセントを買い主様から頂く。今回は4380万円なので、その13パーセントと言うことで総額は500万円を超す。私は人生で初めて、本物の預金小切手というものを目にした。
全ての作業が終わり、私は水谷様をお見送りするため、オフィスの外に出た。水谷様はクルリと振り返ってこちらを見た。
「住むのが今から楽しみだわ。ありがとう」
「お力になれて、本当によかったです」
私はペコリとお辞儀をした。
顔を上げると、水谷様は晴れ晴れとした表情でこちらを見つめていた。
「私、あなたにお願いしてよかったわ。いつか買い替える時がきたら、また藤堂さんにお願いする」
にこりと微笑んで最後に言われた言葉に、胸がジーンと熱くなった。頑張ってよかったなと、心から思った。
「この度は誠にありがとうございました」
私はもう1度深々とお辞儀をして、水谷様の背筋がピンと伸びた後ろ姿が見えなくなるまで見送った。
オフィスに戻ると、私は綾乃さんと桜木さんにお礼を言った。あの時、綾乃さんが背中を押してくれなかったら、そして、桜木さんがアドバイスをしてくれなかったら、私は今日も契約件数0件の日数を記録を更新していたことだろう。
「綾乃さん、桜木さん、契約取れました。やりました」
お礼を言いながら、なぜか感極まってきてボロボロと涙が溢れてきた。
「藤堂さーん、泣かないでー! よしよし、頑張った。今日はお姉さんが飲みに連れて行ってあげるから!!」
綾乃さんが私の背中を擦る。やっぱり今日も綾乃さんの中では飲みに行く事が決定したようだ。
「藤堂さん、おめでとう。頑張ったね」
桜木さんが労いの言葉を掛けてくれた。
「そうよ。藤堂さんは頑張ったの。見てよ、この初々しさ。毎月何件も契約取ってきては飄々としてる桜木とは大違い」
「俺にも感動して泣けってのか?」
「いいねぇ、桜木の泣き顔。インスタにあげとく」
「やめろ。泣かねえし」
「じゃあ、桜木が大物になったらそれをネタに揺する。桜木がうら若き後輩女性社員を泣かせた図」
「マジか、そっちなの??」
にやにや顔の綾乃さんと顔を顰める桜木さん。いつものように阿吽の呼吸でやり合うこの2人に、私は思わず吹き出してしまった。
「お2人とも、本当にありがとうございました。これからも頑張ります」
泣き笑いする私を見て、2人はキョトンとした顔をしたあとにこりと笑ってくれた。
藤堂美雪、27歳。社会人6年目にして、これまでの社会人人生で1番嬉しい日だった。