「いい加減『あかね』って呼んでくれていいのに。それより、山下さんは夏休みどうだった?」
櫻井さんは後ろで括ったポニーテールをわずかに揺らしながら訊ねてきた。
煩わしく思いながらも本を閉じ、櫻井さんに顔を向ける。そのまま彼女の頭上に目をやり、質問の意図を探った。

『山下さん、いつもひとりだけど大丈夫かなぁ。なんとかして私がクラスに溶け込ませてあげないと!』

なるほど、それで私に声をかけてきたのか。
どうやら櫻井さんも夏休み前からさして変わっていないらしい。彼女が私に声をかけるときはいつもこんな感じだ。さすが、クラス委員をやっているだけあって正義感が強い。