「ふたりって、もしかして仲がいいの?」
心と完全に一致している言葉に辟易してしまう。
私はこういう勘違いが一番苦手だ。当事者を置いてきぼりにして勝手に話が進んでしまうから。酷いときにはそのまま噂話に発展するからタチが悪い。
もし私たちが仲良しなんて根も葉もない噂がクラス中に広まりでもしたら……。考えるだけで嫌になってくる。
ただでさえ今日は疲れているというのに、ここで追い打ちをかけるのはやめてほしい。
「ち、違うから! そんなのじゃないから! 私見たいテレビあるから帰るね!」
私はあわてて否定して走り去った。これ以上あの場にいると疲労とストレスで肉体が崩壊していたことだろう。

『そんなにムキになるなんてますます怪しい』

去り際に櫻井さんの心がちらっと見えたような気がしたけど、気のせいということにしておく。
仲良しでもなんでもないのは本当のことだし、あとは伊藤くんが弁明してくれることに期待しよう。伊藤くんなら口が裂けても「仲いいぞ」なんて言わないだろうし。
逃げるように靴を履き替え、私はそそくさと帰路についた。