……時折考えてしまう、物語の主人公のように裏表のない人がいればいいのになって。絶対に嘘をつかない、絶対に裏切らない、そんな人。ちょうど今読んでいる本の主人公がそんな子だ。
けれどそんな人が現実にいるわけもなく、気が付けば私は本の虫となっていた。もともと本が好きだったのもあって、ますますのめり込んだ。
現実で満たされないのなら空想の世界で生きよう、と。
物語の世界だけが私の居場所だ。主人公は、ヒーローだけは決して私を裏切らないのだから。
私は彼女たちの心から、そして醜く汚れた世界から目をそらすように視線を本に戻した。
どうせ彼女たちは何も変わっていないんだろうなあ、という自分の思考に確信が持てた今、これ以上見たくもないものを見る必要はない。