伊藤くんのことは嫌いではない。むしろ面白い人だと思っている。だから手伝ってあげたい気持ちはあるのだけど、さすがに今日はやめておこうと思った。
今日は少し疲れた。話したくない人と会話をするのは精神的にとても負担が大きい。今は一秒でも早く帰ってゆっくりドラマでも見たい気分なのだ。
幸い、私の呪いが作用するのは生身の人間だけ。テレビや写真に写る人の心は見えない。そのおかげで俳優さんをしっかりキャラクターとして認識することができる。
ちょうど昨日録画していたドラマも見たいし、今日は早く帰ることにしよう。
それに、放課後とはいえ教室にはまだ何人か残っているし、伊藤くんと話しているのを他の子たちに見られるのは極力避けたいところだ。
あんまり助けすぎるのもよくないしね、なんて自分に言い聞かせてから、私は教科書を鞄にしまいこんで席を立った。