……大丈夫かな。日誌とかちゃんとつけられるかな。
そんな心配をしながら席につき、本を読んで伊藤くんが教室に来るのを待つ。
案の定、職員室から日誌を持ってきた伊藤くんは、心の中で頭を抱えていた。

『日直って何やればいいんだ……?』

どうやら先生からは何も教えてもらえなかったらしい。
担任の先生、伊藤くんのこと嫌っているようだしきっとわざと教えなかったんだろう。教員である以上、生徒には最低限公平に接してほしい。
……どうしようかな。やっぱり助けてあげるべきかな。
これまで伊藤くんには何かと世話を焼いていたけれど、今回は悩みどころだ。
授業後や掃除前で人が散り散りになっていた今までと違って、今は朝の授業前。みんな既に席についている。
ここで伊藤くんに声をかけるとクラス中の注目を集めることになってしまう。他の生徒に話しかけるならともかく、相手はあの伊藤くんだ。
誰にも好かれず誰からも嫌われない、そんな当たり障りのない人間関係を徹底している私からすれば、伊藤くんと話す場面を人に見られるのはデメリットでしかない。良くも悪くもクラスメイトの関心を引いてしまう。
私はいてもいなくても変わらないような、そんな地味な存在でいたいのだ。