伊藤くんは私が笑ったのを見て『嫌われているわけではないらしい』と安堵している様子だったし、できることなら安心させたまま会話を終わらせたい。
いつも罪悪感ばかりの伊藤くんが少しでも安心したまま過ごせるのなら、それはきっと素敵なことだと思う。せめて私と話すときくらいはそうであってほしい。
それにしても、いつも遅刻ギリギリで登校する伊藤くんがこんな時間に登校するなんて珍しい。まだ授業まで三十分近くあるのに。
不思議に思いながら教室に入ってふと黒板の隅に目をやると、図らずもその疑問の答えを得てしまった。
あ、伊藤くん今日が日直なんだ。
そういえばそうだ。うちのクラスは五十音順に日直が回ってくるから〝い〟で始まる彼はかなり早い段階で回ってくるのだ。転校生だから出席番号自体は一番後ろだけど、だからといって日直も最後というわけではないらしい。私はまだまだ先のことだからすっかり忘れていた。