周りを見ると、クラスメイトたちが不安そうな眼差しを櫻井さんに向けていた。
「あ? なんだよ」
あからさまに嫌そうな態度。けれど櫻井さんは物おじせず「次、移動教室だけど場所わかる?」と彼に訊ねていた。

『伊藤くんちょっと怖いけど、困ってたら大変だもんね』

櫻井さんのことは苦手だけど、彼女のこういう部分は素直に尊敬するし憧れもする。私が同じ立場だったら絶対に声なんてかけられない。
「うっせぇな。場所くらい言われなくてもわかんだよ。そんなことで話しかけんな」
櫻井さんの気遣いに対して伊藤くんは語気を強め、ハエを追い払うように手を振り払った。
その様子を眺めるクラスメイトたちはやはり、伊藤くんに対して不満を感じているようだった。さすがのクラス委員長も不満こそないものの『怖かった』らしい。