「こら、まず挨拶と自己紹介をしなさい。名前とか趣味だけでいいから」

『なんで俺がこんなやつを受け持たなきゃいけないんだよ』

先生はそんな鬱憤をためていた。さっきはつい軽蔑したけれど、伊藤くんの容姿を見れば先生がこんなことを考えるのも無理はないのかなと思えてくる。
そのくらい、彼はこの場において異質な雰囲気をまとっていた。
「めんどくさ。名前は伊藤大地。趣味はない。これでいいか?」
伊藤くんはぶっきらぼうに言ってのけると、先生からの返答も待たずに廊下側の空いた席にどかっと座り込んだ。
先生もクラスメイトたちも、その一連の様子をあっけにとられて見ているだけだった。

『怖いなぁ。いじめられたらどうしよう……』
『できるだけ関わらないようにしよう』
『もう一回転校すればいいのに』

クラスメイトのたちの伊藤くんに対する第一印象は最悪だった。夏休みが明け、やや浮ついていたクラスの雰囲気は一瞬で変わってしまったらしい。